「声をあげてみる」ことを大切に エシカルボイスプロジェクト

2023 / 7 / 10 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks Editor


(Illustration by ナナとハチ via IllustAC)

エコネットワークス(ENW)が運営するコミュニティ、TSAでは「サステナビリティファンド」という仕組みを設けています。TSAに参加するパートナーが自身や社会のサステナビリティにつながる活動をしたいときに、資金面から取り組みを応援する制度です。

神奈川県在住の野澤 健さん、関澤 春佳さんはファンドを利用して、生活者・消費者の立場から企業などに声を届けていく「エシカルボイスプロジェクト」を立ち上げ、企業などに自分たちの声を届けたそうです。どんな成果があったのでしょうか?


執筆:
野澤 健
ENW代表。

関澤 春佳
コミュニケーションデザイナー、書道家。


意識して商品を選ぶ。生活スタイルを変えていく。サステナブルな社会をつくるために、生活者・消費者として、できるところから取り組んできました。でも、これまであまりできていなかったことがあります。それが、直接声を届けること。製品に問題があると感じたとき、サステナブルな製品に切り替えることはしても、製造した企業に包装の削減やサステナブルな素材の使用をお願いすることは、手間も時間もかかるので、よほどのことがない限りやりませんでした。

でも、企業にとっては何も言わずに顧客が離れるよりも、耳の痛いことでもお客様の声が届くことは嬉しいはずですし、成長のきっかけにもなります。企業の方と話していても「お客様からそうした要望があれば検討するが、そもそもそうした問い合わせがない」という声をよく聞きます。そこで、サステナビリティファンドに背中を押してもらいながら「エシカルボイスプロジェクト」に取り組むことにしました。

プロジェクトの5つのルール

今回の目的は、環境や社会の課題を認識してもらい、改善のために取り組んでもらえるよう後押しすること。そこでプロジェクトを進めるにあたって、5つのルールを設けました。

1.本音で、当事者として話す
すべて日々の生活の中で感じたこと、考えていることを出発点としました。また、本気度を伝えるために、電話番号や住所など問い合わせフォームへの個人情報は必須でなくてもできるだけ入れるようにしました。

2.会社ではなく人に向かって話す
相手に共感してもらい行動を促すことが目的であるという前提を忘れず、会社という組織ではなく担当する人と話すという意識を常に持つよう心がけました。

3.顧客の立場を活かす
商品・サービスを選ぶ際にサステナビリティに取り組む企業のものを積極的に選んでいることを伝え、実際にそういう顧客がいると実感してもらい、同じような人たちは他にもいるはずだと伝えるようにしました。

4.同業他社と比較する
より危機感を持ってもらえるよう、同業他社で良い取り組みをしている場合には、その企業名や取り組みを挙げて比較しながら問い合わせるようにしました。

5.応援する、一緒に取り組む
その会社のビジョンや方針に言及し、今後への期待や「消費者・利用者としてできることを教えてほしい」という一緒に取り組みたい気持ちを伝えるなど、最後はポジティブなメッセージで締めるように心がけました。

ポジティブな変化があった!

約半年間の活動を通じて55の企業・組織に対して改善の要望を伝え、48社・団体からリアクションがありました。多くは「貴重なご意見をありがとうございます」という一次対応でしたが、6つの企業・組織からは今後積極的に改善に取り組んでいく旨の回答があり、うち2社では実際に改善されていることが確認できました。

一つは、地域の飲食店。ドリンクにストローをさす必要性を事前に確認してもらうことを依頼したところ、丁寧なお返事をくださり改善してくださいました。もう一つは、商品コピーに「はたらくママのための」と書かれてあった手作りお菓子用の材料袋。「パパはダメなの?」と、ステレオタイプ強化につながる懸念を持ったので商品レビューで聞いたところ、リニューアルされたパッケージから表記はなくなっていました。また、会員登録や問い合わせフォームを利用する際、性別の記入欄で男女しか選べない企業に対しては、答える際に困る人がいること、選択肢を増やすか、必須でなければ設問をなくしてほしいことを伝えたところ、1社はすぐに対応すると連絡があり、後日確認すると項目が削除されていました。もう1社も「社内でも課題認識を持っていたところで、早急に対応を検討する」という返信がありました。

プロジェクトを通じての気づき

今回のプロジェクトを振り返って、いくつか気づいたことがあります。

1. 製品開発段階で環境や社会課題の視点を入れることの重要性
製品をリリースした後に何か対応をするには、コストがかかります。容器包装の削減をお願いしたある食品メーカーからは「製造工程や製造設備の兼ね合いですぐの対応が難しい」と返答がありました。企業側として、設計段階で環境面・社会面からもチェックを入れていくことの重要性を感じました。

2. 問い合わせへの対応次第で、好感度は急上昇・急降下
日々さまざまな問い合わせが寄せられる中で、一つひとつに丁寧に答えることが難しいことも理解できます。それでも「承りました」「今後の検討材料にします」「貴重な声をありがとうございます」といった最低限の一次対応に加えて、以下のような対応は好感が持てました。

  • 「早速関連部門に伝えました」と具体的にどう受け止めたかに言及する
  • 「ここまではできているけど、ここからはできていない」「ここは課題として取り組んでいる」と率直に伝える
  • 問い合わせしたことを含め、顧客の立場でも課題に対し問題意識を持って取り組んでくれることへの感謝を伝える
  • 定型文ではないことが伝わる、返信担当者の個人的なメッセージを入れる

一方で問い合わせに対して返信のない企業も数社あり、とても残念でした。

3. モノやサービスに対する見方が変わる
この半年間、できるだけ多様な視点から、たくさんの企業に問い合わせをしようとアンテナを貼っていました。おかげで、生活の中で出会うモノやサービスに対して、多様な見方がこれまで以上にできるようになった気がします。

4. 1人でも、声を上げれば変わる
今回声を届けたことで、たとえ小さな動きだとしても実際に変化がありました。コストをかけずに対応できることは受け入れやすいですし、顧客との距離、地域との距離が近い企業は前向きに受け止めてくれる可能性が高いです。一人でも、まずは身近なところから、自分に合った方法で声を届けていけば変化が生まれていくと実感しました。

5. より根本的な部分は、1人だけでは変わらない
一方で、事業の根幹に影響するような内容の場合や、相手が大きな企業の場合や業界全体が遅れている場合などは、1人だけの声で何かが変わる可能性は低いです。本当に大きな動きを起こしていくためにはNGOやChange.orgでのキャンペーンなど、数や組織の力が必要です。全体を見渡して、どこにどのように働きかけるべきかを見極めていくことが重要だと感じました。

今回、「声をあげる」ことからさまざまな広がりが生まれるということが垣間見え、改めてその意義を実感しました。この活動はライフワークとして継続します。当面の目標は100件。取り組み成果の伝え方や広げ方についても、どういう形がいいか引き続き考えていきたいです。

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