上勝町HOTEL WHYでリトリートをしながら、ゼロ・ウェイストを考える【後編】

2022 / 9 / 2 | 執筆者:EcoNetworks Editor

エコネットワークス(ENW)が運営するコミュニティ、TSA(Team Sustainability in Action)では、「サステナビリティファンド」という仕組みを設けています。TSAに参加するパートナーが自身や社会のサステナビリティにつながる活動をしたいときに、資金面から取り組みを応援する制度です。
ファンドを利用して徳島県上勝町を訪れ、ゼロ・ウェイストを学んだ立山 美南海さん。レポート後編をお届けします。(レポート前編はこちら!→

※TSA(Team Sustainability in Action):
ENWに関わるパートナーのプラットフォーム。サステナブルな働き方や暮らし方を志向する個人が集う、学びと実践の広場。
参考記事 サステナブルな価値を生み出す「広場」としてのTSA

※サステナビリティファンド:
参考記事 ファンドに背中を押されて始まる等身大のサステナビリティ


執筆・撮影:立山 美南海
東京都在住の翻訳者・翻訳コーディネーター


2021年10月に、サステナビリティファンドを利用して、上勝町のゼロ・ウェイストアクションホテル “HOTEL WHY”に宿泊しました。後編では、HOTEL WHYと上勝町内での発見と、私が今続けているゼロ・ウェイスト・チャレンジについてご報告します。

はじまりはビール?

2003年にゼロ・ウェイスト宣言をした上勝町。ですが、前編にも書いたように、はじめからスムーズに事が運んだわけではありませんでした。細かいごみの分別への賛同はなかなか得られないし、町にオープンした量り売りショップもなかなか繁盛しない。「自分の山」に不法投棄をする人まで出てくる。町民の納得を得て、取り組みを推進していくには、成功事例を見せることが必要でした。

上勝町の最大の課題は「過疎化」。過疎化が進む町で新しい取り組みを進めるには、地域活性化がカギになるのではないか――そんなアイデアで2015年5月30日(ごみの日)にオープンしたのが、ブルワリー「RISE & WIN」でした(あとから気付きましたが、「上&勝」なんですね!)。

HOTEL WHYと同じ赤い壁が目印のRISE & WINには、クラフトビールの醸造所と、レストラン、日用品の量り売りショップが併設されています。そして建物の随所にはアップサイクルされた廃材が使われています。さらに、看板商品であるクラフトビールは、上勝特産の柚香(ユコウ)の果汁を絞った後の皮で香り付けされています。

ユコウは、上勝を象徴する柑橘。全国の生産量の90%を占めています。もともとは捨てられていたユコウの皮を活用してクラフトビールを作り、ゼロ・ウェイスト活動と掛け合わせて発信することで、町外からもお客さんが集まるようになりました。こうして、ゼロ・ウェイストと地域活性化を両立することに成功し、現在はHOTEL WHYを併設するゼロ・ウェイストセンター建設のゴーサインが出たといいます。

錆びた一輪車を使って、駐車場の目印に!

空き瓶のシャンデリア

エコストアの洗剤やお菓子、調味料を量り売りで販売

ビールも料理もおいしくて、おしゃれでびっくり。「わざわざ来たくなる」お店だなと感じました

ゼロ・ウェイストセンターの3つの機能

2020年4月、晴れてオープンしたゼロ・ウェイストセンター。ここには、①教育、②研究、③発信の3つの機能があるそうです。

①教育

町内唯一のごみ集積所であるゼロ・ウェイストセンター。車を運転できない家庭には軽トラで回収に向かいますが、基本的に町民は自分でここにごみを持ち込み、自分で分別をします。しかし、「これは何ごみ?」が分からないことも。ここには、年末年始以外はずっとスタッフがいるので、分からなかったらすぐに聞いて教えてもらえます。こうして丁寧に町民と向き合うことが、取り組みが徐々に受け入れられることにつながったそうです。また、細かく分けることで逆に分別の仕方が分かりやすいといった声もあるそうです。

教育は、町民の方だけが対象ではありません。むしろ、「ゼロ・ウェイストをもっと広めなければ」という使命感を持つ上勝町は、町外の方への教育にも積極的です。HOTEL WHYのスタディツアーもその一つです。

②研究

どうしたらもっとごみを減らせるか? 今リサイクルできていないものを循環させるには? どうしたら一般市民の協力を得られるか? 上勝町のチャレンジは、今も続いています。

例えば、花王と協働で実証実験中の「リサイクリエーション」。洗剤やシャンプーなどのプラスチック製詰め替えパックは、家庭で洗っても泡が残ってしまうことに加え、複数のプラスチック原料からできているために、そのままでは再資源化が難しいという課題があります。「リサイクリエーション」では、花王が使用済みの容器を無料で家庭から回収して、工場で裁断・洗浄・ペレット化を経て、ブロックに再生しています。できあがったブロックは「おかえりブロック」と名付けられ、地域に還元。ゼロ・ウェイストセンターの一角にも置いてありました。

ブロックをどう使うか、ブロック以外の使い道はないのかなど、まだ検討は続くとスタッフの方は言います。

カラフルなブロックからは、かすかに石鹸の香りがしました

③発信

過疎化が進む上勝町にとって、外からどれだけ人を呼び込めるかは重要な問題です。「ゼロ・ウェイスト」を地域ブランドとしてアピールし、視察や観光客を呼び込むと同時に、ゼロ・ウェイストの理念そのものを広めるためにも、ゼロ・ウェイストセンターがハブとなって様々な取り組みをしています。

その積み重ねが奏功し、移住の問い合わせも増えてきているそうです。

あちこちにアップサイクル

ゼロ・ウェイストセンターの建物は、住民が持ち寄った廃材でできています。町の広報誌などを通じて募集した結果、人口1500人の町でなんと約700個の廃材が集まったそうです!

ホテルを散策していると、もとの姿を残しながらカッコよく生まれ変わったアップサイクル製品がたくさんありました。一部をご紹介します。

空き瓶を利用して、シャンデリアに

古い食器を砕いて、床材に

家庭や学校にあった不要な扉を活用して、窓に

ビールケースを積み重ねて、カウンターに

こうして町民から集めたのは、もちろん「物をムダにしない」というゼロ・ウェイストの考えが根底にあってこそですが、「町の人に愛される施設」を目指したからだそうです。確かに、もとは自宅にあった馴染み深いものが、こんなにクールな施設の一部として溶け込んでいたら、愛着が湧いてくるような気がします。

また、施設全体に散りばめられたアップサイクル品を見つけるのは、町外から訪れた人にとっても宝探しみたいで楽しいです! 「これは何でできているのかな」「もとはどういう使われ方をしていたのかな」と話しながら、考えながら歩き回ると、一緒にいる人との仲も深まりそうです。

まだまだある! 町中で見つけた、ゼロ・ウェイストの工夫

ホテルを出て町に出かけると、レストランやカフェの入り口にこんなマークを見つけました。

ガラスの扉に貼り付けられた複数の円形のステッカー

はかりのイラストの上にZERO WASTEやLOCAL FOODなどと書いてあるこのマーク。お店の中にあったパンフレットを見ると、「ゼロ・ウェイスト認証店」を示すものだと書いてありました。この認証制度は、上勝町公式の取り組みで、町内7カ所の店が認証を受けています。認証基準は8種類。例えばWHOLE EATは、調理方法や食材調達の工夫によって、食品ロスを出さないようにする仕組みがあることを示しています。また、面白いなと思ったのが、OPEN for ACTIONという基準。利用者がごみ削減・分別に取り組める工夫をしていることを示すそうです。

写真のカフェ・ポールスターは8種類すべてを満たしています。

葉っぱの箸置き。上勝町は、葉っぱビジネスの成功でも知られています。詳しくはこちら→https://irodori.co.jp/

取り組み自体も素晴らしいのですが、驚いたのが、食事の素晴らしさ! こちらのポールスターも、RISE & WINも、もう1カ所ディナーに行ったレストランPertornareも、ゼロ・ウェイストの観点で創意工夫が凝らしてあって楽しめるだけでなく、味も見た目も最高でした。食事がおいしい地域は、それだけでまた行きたくなります。

一番印象に残っている料理は、Pertornareでいただいた焼きナスのジェラート。甘い、けど香ばしい焼きナスの風味がします。あぁ、また食べたくなってきた…

小さな田舎町に、こんなにクオリティの高いお食事処がいくつもあるのは、地域ブランド化の賜物でしょうか。次に訪れることがあれば、お店の方にもっとじっくりお話を伺いたいです。

HOTEL WHYに滞在、その後

学びあり、お楽しみありの上勝ツアーから9カ月。全体を通じて痛感したのは、自分がどれだけ「分かった気・やったつもり」になっていたかということでした。
上勝町では、「ゼロ・ウェイストに取り組まないと、どうしようもない」という切実な事情から取り組みがスタート。今では町全体がその重要性を肌で理解して、当たり前のこととしてごみ削減に取り組んでいます。また、「必要だから仕方なく」ではなく、必要性を根底で感じつつも、ゼロ・ウェイスト先進地域であることを誇りに思いながら、工夫を楽しんでいるように見えました。

一方で私は、ここに書くのも恥ずかしいのですが、生ごみは「燃えるごみ」として捨てていましたし(上勝では各家庭で堆肥化)、リサイクルして市町村の収入になる資源とコストになる資源の区別もまともについていませんでした。また、私がふだん「燃えるごみ」だと思っていたものは、上勝町では「どうしても燃やさなければならないもの」として分別され、そこに入れられるのは私が思っていた以上に限られたものでした。

サステナビリティの分野で働く者として、これは何とかしなければ、と思い、我が家でもゼロ・ウェイスト・チャレンジを始めました。

例えば…
・コーヒーかすを消臭剤に活用
・キッチンペーパーを卒業し、洗って再利用できる晒しを活用
・生ごみコンポスト
・「燃えるごみ」を入れるごみ箱に「燃やさなければいけないもの」と書いたラベルを貼って、捨てる前に考える癖をつける
・紙の分別
(紙は当然「燃える」けれど、「燃やさなければいけない」ものでなく、分別すれば資源として市町村の収入に!※地域によるかもしれません)
・使わなくなった食器を地域のリサイクルセンターに持っていく
・金継ぎをして、愛用の食器を長く使う
・調味料や洗剤を量り売りで買う
(味噌は、近くの味噌屋さんで。洗剤はちょっと遠くまで行かないと量り売りショップがなく、近くに店ができないかなと思っているところです。量り売りで買えないものは大容量の詰め替えを買って、少しでもパッケージ消費を減らそうとしています)
・スーパーで水物袋を素早く断る
(レジ袋は有料化したのに、水物袋は、油断していると手際の良いレジ係さんがすぐに取り出してしまいます。その前に「いりません」と言えるか、スピード勝負です)
・重曹、クエン酸、酸素系漂白剤の3点セットで、家にある洗剤を減らす
・中古で済むものは中古で買う

理想を言えば、まだまだチャレンジしたいことはたくさんあります。生協から届く有機野菜セットはほぼ漏れなくプラ袋に入っているし、毎日大量に出るコーヒーかすをすべて再利用できているわけではないし、色々なものが揃う国分寺の量り売りショップは通うには遠すぎて、近場で包装されたものを買ってしまうことも多いし…。

また、自分としては前進できたことを嬉しく思う一方で、地球全体の現状を思えば、暗い気持ちになってしまうこともあります。
このモヤモヤとは今後も向き合っていくことになると思いますが、上勝町で体験したことは、私の人生にとって大きな財産になりました。
改めて、このような素晴らしい機会をくださったTSAに、感謝申し上げます!

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