一滴の”雫”から波を起こす  〜サステナビリティファンド 5年目のチャレンジ

2022 / 8 / 29 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks Editor


ENWパートナーのプラットフォーム「TSA(Team Sustainability in Action)」※の活動の一つに、「サステナビリティファンド」という取り組みがあります。これは、ENWが掲げる「『個』が輝くサステナブルな社会を実現するため、波を起こす一滴の雫になろう」というミッションを実現すべく、始まった制度の一つ。世界各国で暮らすTSAパートナーが「自身や社会のサステナビリティにつながる活動をしたい」と思った時、資金面からその取り組みを応援しています。本格実施5年目の今年、どんなチャレンジが生まれたのでしょうか。

※TSA(Team Sustainability in Action):ENWに関わるパートナーのプラットフォーム。サステナブルな働き方や暮らし方を志向する個人が集う、学びと実践の広場。参考記事 サステナブルな価値を生み出す「広場」としてのTSA


執筆:新海 美保(TSA「サステナビリティファンド」事務局)
長野県駒ヶ根市在住のライター。「ごちゃまぜのまちづくり」の一翼を担うべく奮闘中。


生ごみを堆肥に変え、家庭菜園に生かす

手づくりのコンポスト

「一人ひとりのサステナブルな取り組みを応援します! ぜひ申請してください」
TSA事務局は、2021年8月初旬、TSAパートナーにこんなメッセージを送りました。サステナビリティファンドの募集開始のお知らせです。パートナーは、向こう1年で実施予定の「マイプロジェクト」を考え、1万・3万・5万円の枠から選んで申請することができます。

今回のファンド申請者は16人。過去5年間で最も多い年となりました。ファンドを活用したパートナーの活動は様々ですが、今年は家庭で出る生ごみを堆肥に変えて家庭菜園に活用するなど「農」に携わるプロジェクトが多く実施されました。

例えば、鹿児島県在住のデザイナー、戸塚 晶子さんは無農薬の家庭菜園を始めるためにファンドを活用して、EM(有用微生物群)菌という微生物の種菌やエサ、セラミックパウダー、ボカシづくり用のバケツを購入。EMを天然の材料で複合培養する「EM活性液」や生ごみの堆肥をつくり、野菜栽培に活用しています。愛知県在住の翻訳者、山本 香さんも、コンポストを使って生ごみを堆肥に変え、自宅の庭などで循環型の野菜づくりに挑戦しています。

千葉県で暮らすCSRコンサルタントの早川 貴子さんは、なんと親子三世代で木製のコンポストをこしらえました。「自然の土の力を利用してできあがった堆肥はふかふかで、その土で育った草花や果物はとても元気です」。こう話す早川さんは、TSAの部活の一つ「コンポスト部」に所属していて、木製のコンポストづくりにあたっては、部内でアドバイスを求めたり意見交換をしたりしながら、完成へとこぎつけました。

世界各地のサステナビリティを体験・発信

徳島県上勝町のゼロ・ウェイストアクションホテル “HOTEL WHY”

世界各地の先進的な取り組みを体験して、そのレポートを書き、パートナーに刺激を与えてくれたプロジェクトもあります。

英国スコットランド在住の翻訳者、杉本 優さんは3日間のイベント「Fully Charged OUTSIDE」に参加し、電気自動車(EV)車両やクリーンエネルギー、脱炭素化技術関連の最先端事情をレポート。世界83万人のチャンネル登録者がいるYouTubeチャンネル「Fully Charged」の生みの親であるロバート・ルウェリンさんにインタビューし、その思いに迫りました。また、ダイビングが大好きなオーストラリア在住のリサーチャー、川平 紗代さんは、珊瑚の白化現象の問題を解決できればと、Coral GardenersというNPOのプログラムを通じて、南太平洋に浮かぶモーレア島の珊瑚サポーターになりました。

徳島県上勝町のゼロ・ウェイストアクションホテル “HOTEL WHY”の滞在体験記を書いたのは、東京都在住の翻訳者、立山 美南海さん。上勝町は日本で初めて「ゼロ・ウェイスト」を宣言した自治体で、ホテル滞在中、立山さんは上勝町ならではの「分別」を体験したり、同町のゼロ・ウェイストの歴史を学んだり、たくさんの刺激を受け、帰宅後に自宅でできる「ゼロ・ウェイスト・チャレンジ」を始めました。

東京都在住のライター、宮原 桃子さんは「サステナブル・シーフード」をコンセプトにしたフレンチレストラン「シンシアブルー(Sincère BLUE)」コース体験記をまとめました。サステナブル・シーフードとは、海や魚に配慮した持続可能な方法で漁獲・養殖された海産物のことで、宮原さんはこのレストランが生まれた背景や水産物の認証制度、店主の思い・こだわりなどを紹介しながら、今、注目が集まるサステナブル・シーフードの魅力をしっかり伝えました。

また、筆者はファンドの後押しで、視覚に障がいのある人たちのプロ集団「ブラインドライターズ」と一緒にお仕事をしたり、地域で暮らす外国人の皆さんと畑を耕したり、過疎化が進む地域でも多様性に溢れたライフスタイルを実現すべく奮闘しています。

仲間と一緒に、具体的なアクションへ踏み出す

ファンドを活用して、周囲の人を巻き込みながら、より広範囲に「サステナブルな社会」を目指すプロジェクトを立ち上げた人もいます。「ダイバーシティなごみ拾い」と題して、さまざまな性、年齢、国籍の人たちと一緒に環境美化活動を始めたのは、一般社団法人LGBT-JAPAN代表理事で東京都在住の田附 亮さんです。ファンドを活用してごみ拾い用のトングや袋などを購入し、2021年7月に湘南海岸で初めてごみ拾いイベントを実施。以降、大磯海岸や江ノ島などでもごみ拾いのイベントを続けています。

また、京都府在住の翻訳者、俣野 麻子さんは、自身が暮らす京都市西京区「大原野」の魅力を日英のバイリンガルで発信するウェブサイト“oharano.jp”を立ち上げ、地域の人たちと一緒に町を盛り上げています。俣野さんは、TSAパートナーがオンラインで集うシェア会「ローカルメディアのつくり方」でサイト制作の経験を共有。地域をつなぎ、地域を輝かせる情報発信のあり方について、各地で働くTSAパートナーがそれぞれの経験や思いを伝え合うきっかけにもなりました。

夫婦そろってTSAパートナーの野澤 健さん関澤 春佳さんは、生活者・消費者の立場から企業に改善の声を届けていくプロジェクト、題して「エシカルボイスプロジェクト」を実施。約半年かけて、55の企業・組織にコンタクトをとり、包装容器の減量やサステナブルな素材への切り替えなどの要望を伝えました。その結果、48社・団体からリアクションがあり、それらの結果を詳細なリストにまとめ、ポジティブな変化があった事例などを紹介。時間も手間もかかる取り組みですが、「手応えを感じた」と、次なる目標を「100件」に定め、引き続き社会にインパクトをもたらそうと奮闘しています。

先住民族の文化に関する勉強・発信を続ける曽我 美穂さんは、昨年に続きファンドを活用して、一度は絶版になった書籍や手に入りにくい絵本、DVDなどを購入して、それぞれの魅力や見所をnoteで発信しています。曽我さんは「noteを読んだ友人知人から『実は先住民族の文化が好き』と教えてもらうことが多く、同じ興味を持つ仲間が増えました」と、思わぬ収穫があったと話しています。

波を起こすたくさんの「雫」を作りたい

今回ご紹介したのは全16プロジェクトの一部。他にも多様な取り組みが実施されていますが、サステナビリティファンドを活用したTSAパートナーからは一様に「ファンドのおかげで向き合いたかったことに挑戦できた!」という声が寄せられています。また、TSAではサステナブルな暮らしや社会につながるモノ・サービスの購入費用の一部を補助する「サステナビリティギフト」という制度も設けていて、今年は15人が活用しました。

今回のサステナビリティファンド・ギフトでは、単に申請者が一方的に報告して終わりではなく、双方向のコミュニケーションを実現するため、ファンド申請者のSlackグループを作り、進捗状況などを報告し合っています。また、それぞれがもつ知見を共有したり、関連する新しいトピックをシェアしたり、離れて働くパートナーが「サステナビリティ」という共通のキーワードで対話しながら相互理解を深めるきっかけにもなっています。

せわしなく流れていく日々の中で、常に地球の未来や社会の課題に思いを馳せてアクションを起こし続けていくのは、簡単ではないかもしれません。でも、一人ひとりが波を起こす一滴の雫になれば、それはやがてサステナブルな社会の実現につながるはず。そう信じて、今夏もサステナビリティファンドの募集を開始しました!  次はどんなチャレンジが始まるのか、今からワクワクが止まりません。

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