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風力発電所のオーナーになりました!

(Photo by Abby Anaday via Unsplash)
エコネットワークス(ENW)が運営するコミュニティ、TSAでは「サステナビリティファンド」という仕組みを設けています。TSAに参加するパートナーが自身や社会のサステナビリティにつながる活動をしたいときに、資金面から取り組みを応援する制度です。
英国在住の翻訳者、杉本 優さんはファンドを利用して風力発電所のオーナーになりました。どんな制度なのでしょうか?
執筆:杉本 優
英国スコットランド在住の翻訳者。英国翻訳通訳協会(ITI)正会員。
家庭で再エネ発電をというと、普通は屋根にソーラーパネルを設置するのが唯一の選択肢。英国の気象条件では太陽光より風力の方がずっと効率的とはわかっていても、さすがに住宅街で風力発電するのはちょっと無理ですよね。
……と思っていたら、2021年9月にサステナビリティファンドを利用して参加したFully Charged Outsideイベントのトークで、意外なソリューションに出会いました。Ripple Energyという会社のサービスを通じて、風力発電所のオーナーになることができるというのです。
Ripple Energyは発電事業者でもなければ電力小売事業者でもありません。では何をする会社なのかというと、風力発電協同組合の設立・運営プラットフォームなのです。Ripple Energyは協同組合員の出資金とクラウドファンディングによる調達資金を使って風力発電所を建設し、完成後はその維持管理と協同組合プラットフォームの運営管理サービスを担当します。風力発電所の所有者は協同組合。つまり、協同組合の組合員が風力発電事業者の共同オーナーになるのです。発電協同組合が発電した電力は、全国を網羅している送配電系統経由で電力小売事業者(コープエナジー)に売電され、その収益が電気料金の割引という形で組合員に還元されます。Ripple Energyのホームページの動画でわかりやすく説明されているので、見てみてください。
この協同組合モデルの良さは、直接タービンに接続する必要がなく、全国どこに住んでいても風力発電所のオーナーになることができる点です。ソーラーパネルと違い、賃貸住宅に住んでいても引っ越ししても大丈夫。風力タービンが発電を続けている限りは、収益の還元を受けることができます。現在のようにエネルギー価格が上がっても、風力発電所からの売電価格も連動して上がるため、還元割引率が上がって電気料金値上げの影響が抑制できるというメリットもあります。
私がこの話を聞いた時点では、Ripple Energyのプロジェクト第1弾はまだウェールズのGraig Fathaで建設中、第2弾をスコットランド南西部のKirk Hillに建設することが決まり、加入を募集しているところでした。面白いアイデアとは思ったもののまだ半信半疑で、とりあえず仮予約のデポジットを支払ったのが2021年10月。でもその年の暮れにGraig Fatha風力タービンが無事稼働を開始したのを見て安心し、2022年2月にKirk Hill風力発電所の正式加入案内が届くと、迷いなく協同組合の出資金を払いました。
動画:完成したGraig Fatha風力タービンの組合員見学会の様子
出資金の額は、世帯消費電力のうち組合所有風力発電所から供給を受けたい電力の割合で決まり、上限は年間電力消費量の120%。ただし、電気料金は電力コスト以外にも系統接続料金や税金などさまざまな料金が上乗せされているため、120%供給を選択しても無料にはなりません。でも、25%程度の割引になるとのことです。
我が家の場合はソーラーパネルを設置する計画があったので、半分くらいはソーラーパネルでカバーできると見込んで消費電力の約半分に出資することにしました。それでもかなりまとまった額なので、一部サステナビリティファンドを活用させていただきました。
第1弾は他に例のない初の試みということで、風力タービン1基だけの小規模プロジェクトでしたが、Kirk Hillは8基のタービンで構成される本格的なウィンドファームです。2022年5月に組合員募集が終了して秋に着工し、10月には協同組合の第1回AGMがオンライン開催され、進捗の報告がありました。建設計画によると、発電開始は2023年11月を予定しているとのこと。Ripple Energyからは定期的に建設工事のビデオレポートが来て、現地の様子を見ることができます。今はまだアクセス工事の段階で何もない原野という印象ですが、2023年末には私が共同所有する風力タービンが回っている様子を見られるのかなと、今から楽しみにしています。
動画:Kirk Hill建設現場ビデオレポート