循環型経済への公正な移行の妨げとなる研究ギャップ

(Photo by Refhad via Unsplash)

地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)を超えないように資源を有効活用する循環型経済への移行に向けて、世界各地で取り組みが進んでいます。サーキュラーエコノミー推進機関のCircle Economy、国際労働機関(ILO)、世界銀行のS4YEプログラムが発表した報告書『Decent Work in the Circular Economy: An Overview of the Existing Evidence Base』は、循環型経済への移行により環境面でもたらされるメリットの影で、見落とされがちな課題を指摘しています。

Research gaps 先進国に偏った研究

同報告書によると、循環型経済への移行に伴い、世界全体で700~800万の雇用が創出されると予想されています。具体的には、廃棄物管理やリサイクル、修理、再処理といった分野での雇用創出が見込まれ、いわゆるグローバルサウスと言われる国々、またインフォーマル経済で働く労働者が担う部分が大きいと考えられます。
それにもかかわらず、報告書には、循環型経済におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する研究の84%が先進国を対象にしたものであると書かれています。

報告書の序文でS4YEのナミタ・ダッタ氏は次のように語っています:

But this integration will require intentional and adequate policies, as well as further evidence to understand the impact of the circular economy on people’s livelihoods, especially those in developing countries.
(しかし、それら(環境面でのメリットと労働環境の改善)を両立させるには、計画性のある適切な政策に加え、循環型経済が特に途上国の人々の暮らしにもたらすインパクトを把握するためのさらなる根拠が必要である)

循環型経済への移行に伴う労働市場の変化について、現状は先進国やフォーマル経済に偏った研究が大半で、実際のインパクトを正確かつ十分に把握できていない可能性がある点が課題と言えます。

循環型経済への公正な移行を実現するために

循環型経済における労働の多くは、途上国やインフォーマル経済で働く人々、女性や移民など社会的に脆弱とされる人々によって担われています。翻って考えると、循環型経済への移行が公正な形で実現できれば、気候目標の達成のみならず、社会的公正やスキルギャップ、ジェンダーなどさまざまな課題の解決につながる可能性も期待できそうです。

同報告書では、そのために必要な要素として次の3つを挙げています。
① More in-depth and inclusive research on decent work and the circular economy
(ディーセントワークおよび循環型経済に関するより詳細で包摂的な研究)
② Global and social justice-led research and policy
(世界規模かつ社会正義を主軸とする研究および政策)
③ Joint advocacy and data partnerships
(協働と情報パートナーシップ)

特に、次の行動の根拠となる研究データに偏りがある現状の課題に早急に対処し、①の「より詳細で包摂的な研究」を進めることが循環型経済ヘの公正な移行への重要な第一歩と言えそうです。

※英文の訳は、すべて筆者による試訳です。

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