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鉄鋼の脱炭素化 カギを握る資金の流れ

(Photo by Micha via Pixabay)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が提唱する「1.5℃目標」を達成するには、温室効果ガス(GHG)排出量の大幅な削減が必要です。特に、鉄鋼セクターは世界のGHG排出量の7%、CO2排出量の11%を占めており、その脱炭素化が待ったなしで求められています。
今回のブログでは、鉄鋼の脱炭素化をめぐる現状を伝える複数の報告書を読み、見えてきた問題点や今後期待される動きをまとめます。
鉄鋼の脱炭素化を阻むものは?
鉄鋼の生産方法として一般的な高炉-転炉法(BF-BOF)では、「原料炭」と呼ばれる石炭を大量に使用します。今も世界全体ではこの生産方法が71.8%を占め、多くのCO2が排出されていますが、これまでは代替技術がないことを理由に、製鉄における石炭の段階的廃止の議論にこの原料炭が含まれることはありませんでした。
しかし、製鉄技術は大幅に進歩し、材料効率の向上や鉄鋼リサイクル(鉄スクラップの再利用)、グリーン水素を使用する製鉄、直接還元鉄(DRI)などを組み合わせることで、今では2040年までに原料炭を使用しない製鉄が可能になると見込まれています(BankTrack報告書『Still bankrolling coal』 P5 Alternatives to met coalより)。
さらに、国際エネルギー機関(IEA)の報告書には、石炭に関して「既存の生産施設で2050年までの需要を賄うことができる(existing sources of production are sufficient to cover demand through to 2050)」と明記されています。つまり、今後関連施設の新設・拡張は必要ないということになります。
鉄鋼の脱炭素化に向かうための条件は整ったと言えますが、それにもかかわらず、炭鉱の開発や関連施設の新設、改修、拡張などが世界各地で計画されています。脱炭素化が進まない理由はどこにあるのでしょうか。
国際NGO BankTrackやReclaim Financeなどが発表した報告書は、前述のような状況にもかかわらず、原料炭への投融資がいまだに続いていることが原因の一つであると指摘しています。そして、こちらの記事にもあるように、脱炭素化に反する流れを後押ししている企業の中でひときわ目を引くのが日本企業の動きです。
お金の流れを変えて、未来を変える
NGOらによる前出の報告書によると、原料炭の生産拡大事業への支援額で複数の日本の銀行が上位にランクインしており、国別投融資額では日本が世界全体の29%を占めてトップとなっています。世界的にも、製鉄における原料炭の使用を前提とする事業への資金の流入が続いているのが現状です。
地球の未来を考えたとき、鉄鋼の脱炭素化に大きく舵を切る必要があるのは明白で、そのためにはまず、このお金の流れを変えなければなりません。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は昨年6月、次のように語っています。
The world must phase out fossil fuels in a just and equitable way – moving to leave oil, coal and gas in the ground where they belong – and massively boosting renewable investment in a just transition.
(試訳)世界は、公正かつ公平な方法で化石燃料を段階的に廃止すべきだ。石油、石炭、ガスを地中にあるままとし、公正な移行に向けて再生可能エネルギーへの投資を大幅に拡大しなければならない。
鉄鋼セクターにおいても、いま原料炭に向けられている資金を、再生可能エネルギー、グリーン水素を使用する製鉄技術など、脱炭素化に必要な設備への投資に切り替えていくことが求められます。
大量のGHGの排出を伴う従来の生産方法から決別して、新しい道を進めるかどうか。鉄鋼セクターは、地球の未来がかかった大事な岐路に立たされています。その行き先を資金面で後押しするのが投資家や金融機関です。原料炭への資金提供を続けている日本の銀行をはじめとする世界の金融機関の動きに対し、方針転換を求める声がさらに高まっていくことが期待されます。
※英文の訳はすべて筆者による試訳です。
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