ジェンダー格差の解消のために言葉が果たす役割

2024 / 1 / 29 | カテゴリー: | 執筆者:Yukiko Mizuno

(Photo by abbs johnson via Unsplash)

2023年にノーベル経済学賞を受賞した米ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授は、日本で女性の短時間労働(パートなど)が多いことに触れ、「女性を労働力として働かせるだけでは解決にならない」と指摘しました。本当の意味で社会参画を進めるためには、雇用の格差を解消する必要があります。しかし、それだけでは十分ではありません。

女性が直面する様々な格差

Cambridge Dictonaryのブログでは、女性が社会で直面する様々な格差を表す新語を紹介しています。

broken rung(壊れたはしご)
the situation where someone can progress quickly in the early stages of their career but finds it difficult to get a more senior post
(試訳:キャリアの初期には順調に昇進できるが、上級職になるとそれが難しくなる状況)

マッキンゼー・アンド・カンパニーとLeanIn.Orgが2019年に発表した報告書によると、男女の格差は初めて管理職に就く段階、いわばはしごの一段目からすでに顕著であり(同報告書ではこれをbroken rungと呼んでいます)、女性の数は役職が上になるごとに減っていきます。

exhaustion gap(燃え尽きのギャップ)
the situation where women are generally more tired than men, said to be because women have to do more housework, childcare, etc. in addition to their job
(試訳:概して女性の方が男性よりも疲労している状況。女性の方が仕事に加えてより多くの家事や育児などをしなければならないことが理由だと考えられている)

この問題に着目した調査が、2022年3月に米国と英国で実施されています。日常生活における負担の男女差は日本でも大きな課題です。

gender tenure gap(任期のジェンダー格差)
the situation where women hold very senior jobs for a shorter time than men
(試訳:女性の方が男性よりも、非常に高い役職での任期が短いという状況)

世界の12の証券取引所に上場している企業を対象とした調査によると、2018年以降、男性の社長の平均任期は8.1年だったのに対し、女性は5.2年でした。同調査では、女性は業績が低迷している時期に抜擢される場合が多く、危機管理を担わざるを得ないことが、任期が短い一因かもしれないとしています(英ガーディアン紙の記事より)。

言葉で表せば問題意識が生まれる

これらの新語を見ると、女性の社会進出が進んでいる欧米でも、まだ課題が多いことが分かります。それでも、格差の状況を表す言葉があれば、問題意識は社会に共有され、浸透していきます。社会言語学者の中村桃子氏の言葉を借りれば、「人々が新たな視点で世界を捉え直すことで社会が前に進む可能性は、十分にあるはず」です。格差解消に向けて変化を起こす力を秘めた新しい言葉が、日本でも広く浸透することを期待します。

※英文の訳は、すべて筆者による試訳です。

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