Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
それって本当にsustainable?:パート2 サステナビリティ関連表現ガイド

(Photo by Tim Graf via Unsplash)
パート1では、サステナビリティ関連の取り組みや製品・サービス、実績について発信する際、「sustainable(持続可能な)」という表現を極力避けた方がよいことをお伝えしました。
では、代わりにどのような表現を用いるとよいのでしょうか。
パート2では、目的に適い、信頼を育むことができるだけでなく、サステナビリティ実現に向けた全体の動きを後押しするような効果的な表現を用いて情報発信するためのヒントをまとめました。優先度の高いものから順に紹介していきますので、表現を検討する際には記載されている順にご確認ください。また、チェックリストとしてもご利用ください。
1. より具体的な別の表現を使う
「サステナビリティ」というのは、包括的であらゆる状況に対応する概念なので、その形容詞であるsustainableは重要な意味を持ちません。良く言えば、様々な特長や進歩をひとまとめに言い表すことができる表現ですが、悪く言えば、たいした目的や考えなしに使われる単なる流行語です。伝えたいメッセージを明確に、実用的で説得力のあるものとするために、可能な限り具体的な表現を使いましょう。
例
Sustainable material → Non-toxic, plant-based material
(試訳:サステナブルな素材 → 無害で植物性の素材)
Sustainable travel → Low-carbon transportation
(試訳:サステナブルな旅行 → CO2排出量が少ない移動)
Sustainable apparel → Fairly traded, organic clothing
(試訳:サステナブルなファッション → フェアトレード・オーガニックファッション)
2. 形容詞ではなく、名詞のsustainabilityを使う
sustainableという言葉で「サステナビリティに関する」あるいは「サステナビリティのための」という意味を表現する場合は、名詞のsustainabilityを修飾語とする方が的確です。
例
Sustainable courses → Sustainability courses
(試訳:サステナブル講座 → サステナビリティに関する講座)
Sustainable consulting → Sustainability consulting
(試訳:サステナブル相談 → サステナビリティに関する相談)
Sustainable measures → Sustainability measures
(試訳:サステナブル対策 → サステナビリティ関連対策)
この方法は意外にもよく用いられていますが、それも当然です。私たちは、日々の会話で何かについて説明するとき、名詞とその形容詞を自由に入れ替えて使っています。例えば、ビジネスにおいて競合他社を分析することは「competitor analysis」とも「competitive analysis」とも言えます。analysis(分析)そのものがcompetitive(競合する)というわけでなく、「競合に関する分析」という意味であっても、competitive analysisと表現することもできるのです。
3. 相対的に言い表す
サステナビリティは終わりのない試みであり、私たちには完全に実現することができない理想です。すべての世代にわたって、追求し、実現を目指していかなければならないものです。
そのため、どんな場合であっても、絶対的な表現ではなく、何かと比べてsustainableかそうでないかという表現の方が正確であり、信憑性があります。実際に、マイナスの影響がプラスの影響を上回るネットポジティブインパクトを実現できている企業は、いまだに存在しません。また一般的には、具体的な特性を比較したときに、あるものの方が他のものよりも人や環境にとって良いかどうかという視点が分かりやすいと言えます。
4. 副詞を用いて詳述する
どんな風に「sustainable」なのか。
sustainable businessやsustainable supplyといった表現には特に注意が必要です。なぜならこの場合のsustainableは、able to be sustained(「持続させることができる」の意)という従来の文字どおりの意味で用いられているからです。例えば、ある企業のfinancial sustainability(財務的持続可能性)というと、多くの場合、環境や社会へのインパクトとは切り離された別の問題として捉えられます。利益の最大化を進める企業が目指すsustainableな事業は、皆さんが目指すsustainableとは違う可能性があるのです。
例
Sustainable business → Financially sustainable business
(試訳:サステナブルな事業 → 財務的に持続可能な事業)
An unsustainable project → An emotionally unsustainable project
(試訳:サステナブルでないプロジェクト → 精神的に続けられないプロジェクト)
5. 単なるアピールでなければ、sustainableを使ってもよい
この提案は、他の代替案を検討した後の最終手段です。代替案を検討した上で、「このsustainableは単なるアピールとして受け取られるだろうか、それとも、人びとに参加を呼びかけるようなビジョンや野心、コミットメントを言い表しているだろうか?」と自問してみてください。
前者であれば、表現を変えた方がよいでしょう。後者なら、目的を明確にした上でこの表現を使うことをお勧めします。ただし、必ず具体的で実用的な言葉で言い換えるようにしましょう。
sustainableは、うまく使えば行動を促すことができる表現です。一体感を生み、人びとに強く働きかけることができます。米国シアトル市の持続可能なまちづくりへの取り組みSustainable Seattleを例に考えてみましょう。この取り組みは、シアトルがサステナブルな都市であるというアピールでしょうか? それとも、持続可能なまちづくりというビジョンを実現するための呼びかけでしょうか? 後者の場合、そのビジョンについて、具体的な言葉で説明されているでしょうか?
6. おまけ:デザインを工夫する
メッセージがどう伝わるかという点で、デザインは重要です。
もう一つ、オーガニックアンダーウェアブランドPACTを例に考えてみます。数年前にPACTで肌着を購入したときは、初めてオーガニックコットンの衣服を手にして嬉しかったのを覚えています。当時はまだ、オーガニックコットンの製品は珍しく、良い変化の兆しであって欲しいと思いました。でも実際に製品が届くと、少し尻込みしてしまいました。襟の内側についているタグにSustainable fashion for allと書かれていたのですが、タグの一番上の真ん中に大きく筆記体でSustainableとあり、その下にブロック体で小さくfashion for allが配置されたデザインだったのです。

(Photo credit: Modern Fellows)
そのデザインからは、PACTというブランドとサステナビリティを同一視しているかのような印象を受けました。しかも私が知る限り、PACTの製品が他と比べてsustainableであると言えるのは、オーガニックコットンを使用しているという点のみでした。PACTの製品を購入した私に支援を呼びかける全体的かつ具体的な進行中のビジョンというよりは、一つの特長に基づき、その一点で完結する主張と言えます。
そういった違和感を抱きつつも、私はPACTの製品を着続けましたし、友人にも勧めました。でも、企業に対しては確かな信頼と信用を持てなくなりました。顧客のサステナビリティへの関心を製品の販売促進に利用しているだけなのか? それとも、他の事業領域ではオーガニックコットンを広めるというミッション以外にもサステナビリティの実現を目指す取り組みを行っているのだろうか? 製品のタグに使われている表現やそのデザインは、前者であることを示唆するものでした。
メッセージ性のあるものをつくる際は、デザインを慎重に検討しましょう。お客様は、あなたが考えるよりも敏感に様々なメッセージを受け取るかもしれません。
(執筆:Stephen Jensen、和訳:山本 香)