日本における公正な移行を考える

2024 / 3 / 6 | カテゴリー: | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

(Photo by Gustavo Quepón via Unsplash)

2022年に英国学士院が発表した『Just Transition in Japan日本における公正な移行)』は、日本特有の状況における公正な移行をどのように理解し、実践していくかを示した報告書です。今回は、この報告書を参照しながら日本における公正な移行について考えます。

移行に向け、まずはlocal contentを理解する

報告書でも言及されている北海道夕張市は、かつて炭鉱都市として栄えていました。その後、石炭から別のエネルギー源への移行に伴い、石炭産業を支えるために建設された大規模な物理的インフラや、そのために移住してきた労働者が行き場を失い、財政破綻や人口減少につながったことは広く知られています。

この事例は、無計画な移行が地域の人々に多大な負の影響をもたらす可能性があることを示しています。そのため、日本でいま公正な移行を進めるにあたっては、まず地域ごとに労働力やその他のリソースを把握し、また移行に伴ってどの地域・分野に雇用機会やニーズが生じるかを理解した上で、リスクと機会を踏まえて道筋をつけることが大切だといえます。

同報告書では、各地域が持つリソースをlocal contentと表現しています。辞書の定義は以下のとおりです:

the materials, workers, etc. used to make a product that are from the area where the product is made rather than being imported
(他の場所から持ち込まれるのではなく、製品をつくるために現地で得られる材料や労働者など)

Cambridge Dictionaryより引用>

地域に根ざした移行に向け、期待されるNGOの役割

さらに、contentには「文脈」「状況」といった意味があり、英英辞典では次のように定義されています:

everything that is contained within something
(あるものに含まれるすべてのもの)

Cambridge Dictionaryより引用>

前述のとおり、local contentとして具体的に想定されるのは材料や労働者といったリソースですが、移行を考える上で他に把握しておくべきcontentとしては何が考えられるでしょうか。

それを考えるヒントとなる事例が同報告書で紹介されています。
夕張市では、炭鉱遺産を活用したまちづくり「清水沢プロジェクト」が進められています。同プロジェクトの背景には、炭鉱遺産を新たなまちづくりのリソースとして活用することで、まちの歴史に誇りを持てるように、との想いがあり、この地域のアイデンティティに深く関わるプロジェクトだといえます。

地域社会に大きな影響を及ぼす移行を進めるにあたっては、インフラや労働力というハード面だけを見るのではなく、コミュニティとしてのあり方をどう捉えるのかといったソフト面も含め、過去、現在、未来にわたってあらゆる側面で考えることが重要です。

報告書は、地域密着型の団体が多い点は日本のNGOの「異質性(heterogeneity)」であると指摘します。この国において地域に根ざした移行を考える上では、そうした特徴を持つNGOが貴重な役割を果たすことが期待されています。

資源に制約があり、化石燃料への依存を続けている日本が、これから先どのように公正な移行を実現させていくのか。過去から学び、世界のよき先例となるような移行が進むよう、注視していきたいと思います。

※英文の訳はすべて筆者による試訳です。

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