Sustainability Frontline
ステークホルダーから求められる情報開示とは?
「最近の報告書はどの会社も似たり寄ったりで、その企業らしさが見えにくい」
先日投資家の方のお話を聞く機会があり、特に印象に残った言葉です。サステナビリティに関する規制や指標化が進み、企業の開示情報が拡充される一方で、定型化されつつある開示スタイルにより、企業の「自社らしさ」は中々見えづらくなってしまっている側面もあります。
FTSEやGRI、DJSIなど様々な評価指標に基づき情報を開示していくことももちろん重要ですが、その他に押さえておいた方がよいポイントがあります。
「優れた開示とは?」機関投資家が求める情報開示
2023年2月GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は国内株式の運用を委託している運用機関を対象に行った「優れた統合報告書」を公表しました。運用機関による様々な評価ポイントが記載されていますが、中でも主なポイントとして下記2点があげられます。
- ①・CEO、COO メッセージから事業戦略、ESG 戦略、中計の一連の流れ
- ・一貫性・CEOメッセージの内容の充実
- 優良事例:味の素 (CEO として取り組むべきことが明瞭かつ熱意のある記述。今後の経営に期待を持たせる内容)
- ②・マテリアリティと企業価値の関係性
- 優良事例:伊藤忠商事(企業価値とマテリアリティとの関係性が明確)
CEOメッセージはその企業のいわば核となる部分であり、とりわけ投資家はとても重要視しています。味の素のように、CEOとして企業の課題・取り組むべきことが明確に述べられているのか、今後の成長を期待させるような充実した内容であるのか、そしてESG戦略や事業戦略、中期経営計画などとの一貫性があるのかを踏まえたメッセージの発信が大切です。
そして2つ目に、マテリアリティへの取り組みがどう企業価値向上に結びつくのかを丁寧に説明することも重要です。例えば伊藤忠商事の事例は、ロジックツリーによりマテリアリティ→主要施策→方針→企業価値の関連性が説明されているのが特徴です。多くの企業がマテリアリティ→主要施策→実績までの開示は行っていますが、企業価値にどうつながるのか、もう一歩踏み込んだ説明が必要です。
無視できない?学生など一般ステークホルダーの関心の高まり
また、昨今社会的にもサステナビリティに対する関心が高まってきている中で、投資家以外の学生をはじめとする一般ステークホルダーも念頭においた開示を行っていくことが大切です。
昨年、母校の大学で国際教養学を学ぶ大学2~4年生の学生、50名を対象に情報開示に関する講演を行った際、約7割近くの学生がHPを含む企業のサステナビリティに関する開示情報を「いままでに見たことがある」と回答しました。その他「就職先を検討する上でサステナビリティ関連の情報も重要視するポイントとしてみている」などの声も聞かれ、学生の関心の高まりを感じました。
一方で、「難しい用語が多数使われており、理解しにくい」などの声も多く聞かれました。サステナビリティやその分野に精通した投資家や専門家にとってはよく使われている用語でも、それ以外の読者にはあまり馴染みがない場合もあり、折角よいことを伝えていても正しく伝わらない、もしくは途中で読むことを断念してしまうといったことが起こり得ます。
対象読者の明確化・媒体の使い分けが重要
その点において、伝えたい読者を明確にした上で、対象読者に確実に伝わる伝え方を考えていくことがとても重要です。
例えば統合報告書であれば、大きくわけると投資家や専門家などに対象を絞るケースと、マルチステークホルダーを対象読者とする2つのケースが見られます。マルチステークホルダーに対象を絞る場合、難しい用語を極力使わず、丁寧に説明を行っていくことが必要となる一方で、投資家などに対象を絞る場合、他のステークホルダーに対する情報発信は別媒体での対応が考えられます。
別媒体での開示方法としては、サステナビリティレポートやダイジェスト版の作成、HPでの開示など様々なパターンがあります。例えばローソンのように一般ステークホルダー向けにマンガや特別コンテンツなどをHP上に設置するなど、ステークホルダーごとに異なるそれぞれの情報ニーズに合わせたコミュニケーション手段をとっていくことも有効的です。
これらは統合報告書に限った話ではなく、サステナビリティレポートやWEBでの開示を考える際も同様に押さえておくべきポイントです。
刻々と変わる諸外国の規制動向をウォッチしつつ、乱立する評価指標に基づく開示を行っていくことは中々容易ではありません。ただその中でも、今一度、ステークホルダーそれぞれのニーズ(求められている情報は何か)、企業としてのメッセージ(誰に何を伝えたいのか)、開示方法(有効的に伝わるコミュニケーション手段は何か)を明確にした上で、情報開示のあり方を整理し、考えていくことが重要です。
(船原志保/アナリスト)
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