Sustainability Frontline
ビジネスと人権 「子どもの権利」も当然に
今、企業にとって、脱炭素と並んで重要なテーマとなっているのが「ビジネスと人権」です。2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が合意されて以降、日本でも2020年に行動計画が策定され、企業の取り組みも加速しています。
企業活動に関わるステークホルダーの人権には、もちろん「子どもの人権」も含まれます。サプライチェーンの末端で働いている子ども、消費者としての子ども、従業員の家族である子どもなど、その接点はさまざまです。しかし、ともすると子どもの権利は、社会の中で軽んじられたり、後回しにされたりはしていないでしょうか。
象徴的だったコロナ禍での休校
象徴的だったのは、コロナ禍が始まった頃のことです。満員電車に揺られて通勤する大人をよそに、真っ先に子どもたちの休校が始まりました。2020年春の感染者は、そのほとんどが20代以上だったにも関わらず、です※1。教育よりも経済活動が優先された状況下で、私が感じていたのは、休校にしたとしても子どもたち自身から反対の声は上がりにくく、ある意味ではコントロールしやすいところから始めた部分もあるのではないか、と。2022年の今も、大人は外で話しながら飲食するようになった一方で、多くの学校では子どもたちが未だに「黙食」のルールに従っています。社会の中で立場が弱い子どもたちの権利は、軽んじられることが往々にしてあります。
※1 2022年の科学誌ネイチャー・メディシンに、2020年春に実施された休校措置に感染抑止効果が見られなかったという計量分析による論文が発表されています(2020年春の休校に限定した研究結果)。
まず大人の「子ども観」を見つめ直す 子どもは「守られる権利主体」
1989年に国連で採択された「子どもの権利条約(政府訳:児童の権利に関する条約)」では、18歳未満の児童(子ども)を「権利を持つ主体」と位置づけています。大人と同様「一人の人間」として人権を認めるとともに、成長の過程で特別な保護や配慮が必要な子どもならではの権利も定めています。その内容は、大きく分けて4つの柱「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」で構成されています。子どもは、小さくとも一人の人間であり、大人とともに社会を創っていく市民であり、大人と対等・平等に権利を持っているのです。
日本は、1994年にこの条約を批准しました。しかし、国内の児童福祉法において、子どもの権利条約の精神にのっとり子どもが権利主体であると明記されたのは、最近の2016年のこと。また、子どもの権利を包括的に守る「子ども基本法」も、2023年4月にようやく施行されます。専門家からよく聞くのは、日本社会では、子どもは大人が決めたことに従うよう強いられる風潮が強いということです。子どもは一人では生きていくことはできず、守られるべき存在ですが、だからと言って、大人が上で子どもが下という関係性にはありません。子どもは、ただ守られるだけの存在ではなく、「守られる権利主体」なのです。私たち大人は、無意識に子どもを低く位置づけるような考えや行動をしていないか、改めて顧みることが第一歩です。
子どもは重要なステークホルダー 企業がチェックすべき「子どもの権利とビジネス原則」
企業は、子どもを大人と同様に「重要なステークホルダー」と捉えて、人権尊重の取り組みを進める必要があります。その際にまず参照すべきなのが、国連グローバル・コンパクトとユニセフ、セーブ・ザ・チルドレンが2012年に策定した「子どもの権利とビジネス原則 」です。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の起草者であるジョン・G・ラギー教授は、このように話しています。
「子どもの権利とビジネス原則」は、「ビジネスと人権に関する指導原則」を子どもの権利にあてはめて考えるための、重要な取り組みです。子どもは、社会で最も疎外され、脆弱な立場に置かれやすい存在であり、企業の活動や事業、取引関係によって不相応に、深刻に、また永続的に影響されうるのです。
「子どもの権利とビジネス原則」は、企業が子どもの権利を侵害しないことと、子どもの権利を積極的に推進することの2つの側面から構成されています。そして、企業と子どもの接点を「職場」「市場」「地域社会と環境」という3つの「場」に分けて、企業が何を実践していくべきかを示しています。ここに定められた「10の原則」には、児童労働の撤廃、そのために必要な親などのディーセント・ワークの必要性のほか、事業活動や施設、製品・サービス、マーケティング、広告などにおける子どもの安全、土地利用や環境面における子どもの権利尊重などが記されています。
子どもの「生きる権利」すら脅かされる今 企業の取り組みは必至
人権尊重の動きが加速する中で、エコネットワークスがご支援する企業からも、子どもの人権に関するお問合せやご相談が寄せられています。近年は、事業活動上で子どもの権利に配慮する取り組みも徐々に増えています。例えば、児童労働を排除したフェアトレード原料への切り替え、ジェンダーレスなおもちゃの開発、インターネットを経由した子どもの人身売買や性的虐待を防ぐためのAI技術の開発、開発途上国でのトイレ製品の普及によって子どもの病気感染を防ぐなど、多方面での取り組みがあります。また、仕事と子育てを両立しやすい職場環境が整ってきていることも、子どもの権利を守ることにつながっています。
しかし、それでもなお、子どもを取り巻く現状は深刻です。11月に開催されているCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)を前に、ユニセフが発表した調査結果によると、気候変動の影響によって、3人に1人の子どもが極端な高温に直面する国に住み、4人に1人が高い頻度で発生する熱波にさらされています。また、世界の児童労働人口は、20年ぶりに増加して推定1億6000万人、そのうち危険有害労働に従事する子どもの数は7900万人に達しています。こうした領域は、まさに企業が大きな責任と役割を担うところです。子どもの「生きる権利」すら脅かされている今、企業が子どもを重要なステークホルダーと捉え、子どもの権利を守るために取り組むことが必至です。
(宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
こちらの関連記事も、ぜひご覧ください:
・コロナ禍でサプライチェーン労働者にしわ寄せ 求められる「誠実さ」
・“子ども”を中心に据えたAIシステムへ
・子どもの人権への配慮を投資基準のひとつに