Our Stories:人権デュー・ディリジェンスの核となる「ライツホルダーとの対話」支援

野澤健さんと田附亮さん

近年、企業において「ビジネスと人権」は非常に重要なテーマであり、人権デュー・ディリジェンスなどの取り組みが進んでいます。エコネットワークス(以下、ENW)では、人権に関するリスク分析や重要課題の特定、方針策定、ライツホルダーとの対話支援、従業員啓発コンテンツ制作など、多角的な支援を行っています。今回はその中でも「ライツホルダーとの対話」について、ENW代表取締役・野澤 健さんと、ENWパートナーであり一般社団法人LGBT-JAPAN代表を務める田附 亮さんに、どのような支援を行っているか聞きました。

抽象的なライツホルダー像が身近に 自分ごと化への第一歩

― ENWでは、企業におけるライツホルダーとの対話をどのように支援していますか?

野澤:ライツホルダーとの対話は、人権尊重を推進していく上で欠かせない核となるものです。ENWでは、企業が様々なライツホルダーの視点やニーズなどをしっかりと理解し、より良い環境の実現に向け共に考えられるような対話セッションを企画・運営しています。

田附:本日は、あるサービス企業様を事例にお話ししたいと思います。ENWは、LGBTQなど多様な性的指向・性自認のある当事者と従業員の対話セッションを毎年継続して行ってきました。私を含むトランスジェンダー当事者が参加し、対話を行っています。当初は、サステナビリティ推進部門や現場で悩みに直面している部署に声をかけて参加者を募っていましたが、長年継続する中で、今では様々な部署から参加したいと手が挙がるほど定着しています。

田附 亮さん

― 具体的にはどのようなセッションを行っているのですか?

田附:直近のセッションを例にすると、まずSOGI(性的指向・性自認)やLGBTQなどに関する概説をお話した上で、事前に私が同社施設を訪問した中で、トイレなどの設備や制服、サービス・商品について当事者の視点から感じた課題や改善策などをお伝えして、対話を行いました。

野澤:オンライン形式の場合もありますが、しっかりと対話ができるよう、なるべくリアルで、参加者も20-40名程度の話しやすい規模で行っています。

― 対話セッションを行うにあたって、特に意識しているポイントはありますか?

田附:当事者の考えやニーズを押し付けるのではなく、企業のブランドやサービスに込められたコンセプトや世界観をしっかり尊重し、そこに寄り添った上で、ベストな方向性やアプローチを導き出すことを大切にしています。

野澤:あと田附さんは、いつもとてもオープンに対話をするよう心がけていますよね。これによって、当事者の人たちを「LGBTQ」という抽象的なライツホルダー像ではなく、「一人の人」としてまず知ってもらう第一歩になっています。身近に感じることで、従業員の皆さん一人ひとりにとって「自分ごと」となり、それが各人の業務にもつながっていくと思います。

対話セッションや個別相談を経て、組織・事業に変化

野澤 健さん

― 長年対話セッションを継続することで、企業内に変化は見られますか?

田附:前述の企業様では、トイレなどの設備やサービス・商品が、男女だけに限定されないものや性別の固定観念にとらわれないものに変わるなど、緩やかに変化しており手応えを感じています。

野澤:この背景には、対話セッションに加えて、ENWが専門家としてオンラインで個別相談を受ける制度を設け、実務に反映していく仕組みができたことがあると思います。例えば、社内の更衣室やトイレといった設備、人事制度の設計、多様な性的指向・性自認の方々が働きやすい環境づくり、運用フローなど、様々な相談に対応しています。ライツホルダーとの対話を起点に、事業に反映されていく良い流れができていますね。

ライツホルダーとの対話を起点に、真の人権尊重へ

― 企業が様々なライツホルダーと対話を行うにあたり、何が重要だと感じていますか?

田附:私はこれまでLGBT-JAPANを運営してきた中で、LGBTQを特別視して考えるのではなく、あらゆる人のセクシュアリティを尊重するという理念で活動してきました。企業が例えばLGBTQの人々と共に課題やニーズを議論するにしても、LGBTQに限定した個別テーマと捉えるのではなく、広く「人権」の観点で捉えることが大事だと思うんです。そうした視点で取り組むことが、あらゆる人の人権尊重や働きやすい・生きやすい環境づくり、さらには円滑な組織や事業の運営につながっていくのではないでしょうか。

野澤:人権デュー・ディリジェンスについては、今は政府のガイダンスや、様々なコンサルティング企業による支援パッケージなどもあり、企業での取り組みが進んでいます。ただ、そうしたいわゆる「型」が整ってきている中で忘れてはならないのは、ライツホルダーとしっかり対話し、共に考えるという本質的な姿勢です。真に人権リスクを低減し、人権尊重を進める上で、ライツホルダーとの対話は原点となる重要なものだと思います。

(執筆:宮原 桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)

 

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