3つのキーワードで見るオーバーツーリズム対策の最新動向

2026 / 5 / 12 | カテゴリ: | 執筆者:Yukiko Mizuno

(Photo by Prateek Mahesh via Unsplash)

本サイトでは2018年にオーバーツーリズムについて取り上げました。当時、世界全体で約14.2億人だった国際観光客数は、コロナ禍の2020年に約4.1億人まで激減しましたが、その後回復して2025年には約15.2億人に達しています(出典:UN Tourism「Tourism Dashboard」)。オーバーツーリズムの問題は、今も悪化こそすれ改善はされておらず、旅行者の80%が世界の観光地10%に集中しているという報告もあるほどです。

今回は、近年のオーバーツーリズム対策を3つのキーワード(demarketing、redirecting、nudging)から考察します。

観光客数を抑制するdemarketing

まず、demarketing(デマーケティング)と呼ばれる手法があります。これは一般的には、通常のマーケティングとは逆のシグナルを顧客に送ることを指します。観光部門において、旅行者を惹きつけるのではなく、むしろ遠ざけて数を抑制するために規制や入場料が導入されるのは、デマーケティングの一種だと考えられます。

最近では、富士山の人気撮影スポットで撮影できないよう目隠し幕を貼った事例(富士河口湖町)や、京都・祇園地区の私道の通行禁止(違反者には罰金)などがあります。富士山の登山者数の上限や通行料の導入、ローマのトレビの泉での入場料の導入などもその例です。また、こうした特定の活動や名所で課される入場料以外にも、「観光税」を徴収する都市は少なくありません。例えばイタリアのベネチアでは、日帰り旅行者に入島税を課し、団体客の人数を25人までに制限しています。

観光客を分散させ、混雑を緩和するredirecting

redirectは「方向を変える」という意味の言葉です。2026年2月のBBCの記事では、redirecting seasonalityという表現を用いてジャマイカの取り組みを紹介しています。これは、天気リスクを補償する企業などの協力により、滞在中に一定以上の降雨量があった場合に旅行者が自動的に定額の返金を受け取れる仕組みです。雨期やハリケーンシーズンに旅行するハードルを下げて観光シーズン以外の時期の訪問へと導き、旅行者を季節的に分散させる狙いがあります。

最近ではAIを活用した分散化や混雑緩和の手法も導入されています。日本では2025年、鎌倉市が、アニメの聖地として多くの観光客が訪れる鎌倉高校前駅周辺にAIカメラを設置し、混雑状況の可視化・来訪者の分散化に役立てる実証実験を行いました。スペインの人気リゾート地マヨルカ島でもAIを活用したプラットフォームを公式ウェブサイトに導入する計画で、リアルタイムの滞在者数を基に、人気観光地の訪問日時の提案や、その代替となる穴場スポットの紹介を行うとしています。

観光客の積極的参加を促すbehavioral nudging

nudgeは「軽く刺激する」こと。デンマークの首都コペンハーゲンで2024年から実施されているCopenPayという実証実験は、旅行者に小さな行動を促す仕組みを提供します。自動車の代わりに自転車や公共交通機関を利用する、ごみ拾いをする、自然公園の除草やいちご農園の作業を手伝うなどの活動に参加すると、ちょっとしたご褒美がもらえるのです。旅行者の積極的な行動変化を通して環境負荷の低減を目指しているのが特徴で、活動は多岐にわたり、ご褒美も地ビールやオーガニックランチ、いちごのアイスクリームなど、活動に関連するものや地域色に富むものなど様々です。海外からの関心も高く、ドイツのベルリンでも今夏に類似の取り組みを導入する予定です。

いつ、どこを訪れ、何をするかを最終的に決めるのは旅行者であり、その行動を制御することはできません。それでも選択肢が多ければ、特定の場所への負荷は分散され、同時に経済的な便益も分散されるはずです。受け入れる側の取り組みとしては、もちろん状況によっては観光客数を抑制するdemarketingも必要ですが、redirectingやnudgingをうまく採り入れて「魅力的な場所や活動の選択肢」を増やすことの重要性が高まっています。そして訪問する側には、従来の有名観光地だけにとらわれずに目的地や旅先での過ごし方を選ぶ「賢い旅行者」であることが、より一層求められる時代になっています。


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