Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
Day Zero Drought(DZD) 深刻な水不足は遠い未来のリスクではなく近未来の現実

(Photo by Austin Kehmeier via Unsplash)
水は、あらゆる生物の生命維持に必要不可欠であり、人間の暮らしや産業を支える重要な自然資源です。しかし、水の需要と供給の不均衡に対する懸念はかねてから指摘されています。2030年水資源グループ(The 2030 Water Resource Group)は2009年の報告書において、世界全体の淡水需要は2030年までに供給を40%上回ると予測しました。また、国連世界水開発報告書2023によると、水不足にさらされる都市人口は、世界全体で2016年の9億3,300万人から、2050年には17~24億人に増加すると予測されています。
今年9月のネイチャー・コミュニケーションズ誌で発表された研究論文(日本語版リリース:「気候変動:2100年までに世界的に深刻な水不足が発生するかもしれない」)は、今後こうした水不足が、世界のどこで、いつ発生する可能性があるかを示すものです。
水源が枯渇する日
水不足の問題を扱う文書に、Day Zero(デイ・ゼロ)、Day Zero Drought(デイ・ゼロ干ばつ、DZD)という言葉が使われることがあります。デイ・ゼロは「水源が枯渇する日」。2016~2018年に南アフリカのケープタウン市が厳しい水不足に陥った際に、この表現が広まりました。デイ・ゼロの危機は、インドのチェンナイ市(2019年)などの他地域でも発生しています。そしてDZDは、長期的な降雨不足や、河川流量の減少、水使用量の増加など、様々な要因が相まって引き起こされる極端な水不足現象(つまりデイ・ゼロをもたらすような深刻な水不足)を意味する言葉です。
上記論文のシミュレーションによると、デイ・ゼロの危機はもはや遠い未来のリスクではなく、近い将来に起こりうる現実です。世界中の少なからぬ地域が、早くも2020年代~2030年代にDZDに直面する恐れがあります。特に影響が大きいのは、地中海沿岸、アフリカ南部、北米の一部地域などです。人為的な気候変動に歯止めが利かないSSP3-7.0シナリオ*のもとでは、世界全体で2100年までに7億5,300万人(うち4億6,700万人が都市人口)がDZDの影響を受けると予想されます。
水不足の危機は他人事ではない
水資源に恵まれた日本では、こうした極端な水不足に対する危機感は薄いかもしれません。とはいえ、空梅雨や夏場の少雨などの影響でダムの水位が低下すれば、水不足が生じます。今年だけを見ても、例えば7月には新潟県上越市が、飲料水を供給するダムの貯水量減少のため、全市民の約6割にあたる約11万人に対して40%以上の節水を呼びかけました。8月には兵庫県の加古川大堰で、長期にわたる降雨不足により16年ぶりに取水制限が実施されています。気候変動が進行し、降雨パターンがさらに不安定化すれば、こうした水不足が起こる場所も、その頻度も増える可能性があります。
気候変動を含め、水不足の直接的・間接的な要因に対処するには、国際的な取り組みや、政府の施策、企業の行動が不可欠ですが、私たち市民一人ひとりにできることもあります。日常生活の中での節水は、一つひとつは小さなことですが、社会全体の水使用量の削減につながります(家計を助ける効果もあります)。デイ・ゼロの危機が迫り節水を強いられるのを待たずに、水の使い方を見直すことが重要です。
* IPCC第6次評価報告書における温室効果ガス排出量の多いシナリオ。同シナリオのもとでは、CO2排出量は2100年に2015年比で約2倍になり、気温は2100年までに産業革命以前に比べて2.8~4.6度(最良推定値3.6度)上昇すると予想される(IPCC AR6 WG1報告書政策決定者向け要約より)。