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avoided emissionsを読み解く 最新のWBCSDガイダンスからの考察

(Photo by Rosy / Bad Homburg / Germany via Pixabay)
今から8年ほど前、このブログでavoided emissions(AE)を取り上げました。理由の一つに、直訳であれば「回避された排出量」であるにもかかわらず、日本語では「削減貢献量」とされていることへの疑問がありました。今年7月にWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が『Guidance on Avoided Emissions v2.0』を公開し、要旨や第2章でAEを分かりやすく定義していましたので、それを読み解きながら、企業として押さえておきたいポイントをまとめていきます。
avoided emissions (AE) とは?
ガイダンスの要旨p.6に、以下の説明があります。
AE (avoided emissions) are the positive impact created when comparing the greenhouse gas (GHG) emissions of a solution to a most likely, alternative scenario where the solution would not be used. Complementary to actions that reduce an organization’s own direct and indirect emissions, these solutions prevent emissions for other actors.
(試訳)回避された排出量(avoided emissions:AE、削減貢献量)とは、あるソリューション(解決策)の温室効果ガス(GHG)排出量を、そのソリューションが採用されない場合に最も起こりうる代替シナリオと比較した際に生じるプラスの影響を指す。組織自身の直接および間接排出量を削減する取り組みを補完する形で、これらのソリューションは他の主体による排出を防ぐ。
この定義にある重要なポイントをまとめると、AEは、
●ソリューションを導入したシナリオと、導入しないシナリオ(reference scenario、基準シナリオ)での比較で算定される
●企業の実際の排出量(スコープ1~3排出量=GHGインベントリ)削減への取り組みを補完する(complementary)ものである
となります。
企業の削減実績とは分ける必要があり、相殺してはならない
各企業は、自社のバリューチェーンからの排出量を削減する努力を懸命に続けており、基準年を決めてそれとの比較で削減目標の達成率を開示しています。一方AEは、気候ソリューションとしての製品・サービスが購入された場合に創出される「削減見込み」であり、さらにもっとも考えられる「導入しないシナリオ」との比較で、あくまで机上の補完的な数値です。ガイダンスでも、「たとえAE算定が信頼性と確実性を高めたとしても、GHGインベントリの結果とは別個に扱うことを推奨する(p.14)」、「企業のGHGインベントリとAEの間で、相殺や『相殺処理』(compensation or “netting”)があってはならないことを強調することが重要である(p.15)」と述べられています。
AEはまた、社会全体で見込まれる削減量であって、言いかえればソリューションを生み出した企業以外の主体による排出を防ぐ効果であり、様々な外的要因の影響を受ける可能性もあります。ガイダンスのp.20に「Relevant considerations(重要な考慮事項)」として、ソリューションの影響範囲(バウンダリ)が大きくなればなるほど、二重計上の可能性が高まる、 個々のソリューションの貢献の重要性が低下する、 影響の追跡可能性がより困難になる、仮定への依存度が増加する、データへのアクセスが悪化し管理レベルが低下する、といった点を挙げています。
売り上げが伸びれば、当然排出量も増える可能性がある
WBCSDの最新ガイダンスで私が注目したのは、以下の図で、AE(薄い緑の部分)の推移グラフの下に、排出量の増減見込みがオレンジの棒グラフで示されている点です。「売上高の増加は、ソリューション提供者のGHGインベントリの増加につながる可能性がある」とのコメントが添えられています。ソリューションの普及に伴い生産量が増大すれば、当然バリューチェーンからの排出量は増えるのですが、それを明示した例を見たことがありませんでした。これは、見込まれる重要な数値を誠実に提示するアプローチであり、言いかえれば、耳障りの良い情報のみ消費者に提示し、売り上げを伸ばそうとする姿勢とは一線を画すものです。また、導入の推移も緩やかなカーブを描いており、昨今の消費の冷え込みを考えれば、例として妥当なグラフと受け止められます。

(WBCSD『Guidance on Avoided Emissions』(2025年7月)より引用、p.16)
自社がソリューションとして提供する製品・サービスによる脱炭素化への貢献を「削減貢献量」と呼ぶのであれば、上のグラフのように、当然発生しうる「マイナスの影響」も一緒にわかりやすい形で消費者に提示していく。そのような姿勢が求められていると考えます。
参考:第2章p.13での定義
Avoided emissions refer to the estimated difference in full life cycle GHG emissions that results from a scenario with a solution in place, compared to a reference scenario without the solution. When the solution scenario emissions are lower than the reference scenario emissions, emissions have been avoided.
A solution refers to a product or service, such as energy-efficient insulation or plastics recycling. It can also be a project or innovation, such as an initiative or a technology to reduce energy demand.
The reference scenario reflects the most likely situation that would have occurred without the solution.
(試訳)回避された排出量(avoided emissions、削減貢献量)とは、ソリューションを導入したシナリオと、ソリューションを導入しない基準シナリオとを比較した際に生じる、ライフサイクル全体のGHG排出量の推定差を指す。ソリューション導入シナリオの排出量が基準シナリオの排出量よりも低い場合、排出量が回避されたことになる。
ソリューション(solution、解決策)とは、エネルギー効率の高い断熱材やプラスチックリサイクルなどの「製品・サービス」を指す。また、エネルギー需要削減のための取り組みや技術といった「プロジェクトやイノベーション」も含まれる。
基準シナリオ(reference scenario、参照シナリオとも呼ばれる)とは、ソリューションが導入されなかった場合に最も起こりうる状況を反映したものである。