グリーンハッシング ESG情報の開示を控える企業が増加、その背景とは?

2025 / 7 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:Yasuko Sato

実態が伴わないにも関わらず環境に配慮しているように見せかけるグリーンウォッシュ(greenwashing)は広く知られていますが、それとは正反対のグリーンハッシング/グリーンハッシュ(greenhushing)の傾向もこの数年で広がりつつあります。hushには「沈黙する」という意味があり、グリーンハッシングとは、ESGの取り組みや結果に関する情報を意図的に公表しない、あるいは控えめに公表することをいいます。これまで情報開示は拡大の一途をたどってきましたが、状況は変化しているようです。

気候関連の情報開示は縮小している

気候対策に力を入れている1,400社(12ヵ国、14セクター)を対象としたSouth Poleの調査報告書『Net Zero Report 2023/2024』によれば、70%の企業がグリーンハッシングを行っていることを認めています(p.32)。また、44%の企業が以前より開示が難しくなったと回答し、そのうちの58%が実際に開示を縮小しています。最大の理由は頻繁に変更される規制や産業ごとの報告要件の強化で(57%)、顧客による監視の強化(45%)、主張の根拠となるデータの不足(43%)がそれに続きます。

一方、このように情報開示は縮小傾向にありますが、93%の対象企業は商業的な成功に情報の開示が重要だと考えており、86%はネットゼロへの取り組みのための予算を増やしています。

データ不足という背景には、グリーンウォッシュ批判を避けるためという理由がありますが、これはグリーンハッシングというより、根拠のないカーボンニュートラルなどの主張撤回で、適切だという別の見解もあります。

ESGに対するムードの変化(米国)

フォーブスの記事によれば、米国では近年、ESGの取り組みに対する社会のムードが大きく変化しました。企業レポートにおけるESG情報開示は2023年にピークに達し、それ以降減り始めています。米国の一部の地域では、ESGの取り組みを対外的に力強く主張することは政治的なリスクを伴うようになったことから、それを語るトーンは下がり、沈黙する企業も出始めています。

記事では、サステナビリティの議論が長年にわたり規制当局、投資家、経営陣の間で繰り広げられてきたことが、ESGへの反発の原因の一つではないかと述べられています。「ESG」のような頭字語や、ネットゼロ、スコープ3排出、移行タクソノミー(投資家が判断基準に用いる、公正な移行[just transition]に貢献する経済活動の分類)といった抽象的な概念が溢れ、従業員や消費者、小規模事業者が蚊帳の外になっていた側面があるのではないか。そうした概念は必要であっても、それだけで人の心は動かせないという見方は頷けます。

グリーンウォッシュやグリーンハッシングについて見ていくと、情報開示のあり方を考えさせられます。情報開示が主に投資家向けに行われるのは避けられません。しかし、投資家や専門家でない私たち一般市民にも伝わる情報発信が行われること、そして何よりも持続可能な社会を目指す課題解決のための取り組みが止まらないことを願います。

(Photo by bertvthul via Pixabay)

参照:
South Pole東京オフィスによるプレスリリース
デスティネーション ゼロ: 企業の気候変動対策の現状
South Poleの2023-24版Net Zero Report

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