気候に関する誤情報「climate misinformation」 その傾向と私たちに求められるリテラシー強化

2025 / 7 / 24 | カテゴリー: | 執筆者:Yukiko Mizuno

(Photo by Hartono Creative Studio via Pixabay)

気候に関する誤情報が、危機(crisis)を破滅的な大災害(catastrophe)に変貌させつつある――英紙ガーディアンはこの見出しとともに、情報環境に関する国際パネル(International Panel on the Information Environment:IPIE)が今年6月に発表した報告書を紹介しています。

気候に関する誤情報のトレンド

同報告書の政策決定者向け要約版によると、最近の気候に関する誤情報には以下のような傾向が見られます。

1)「否定」から「懐疑」へ

誤情報の性質は、否定(denialism)から意図的な懐疑(skepticism)へと変わってきています。前者は、気候変動は実際に起きている、気候科学は信頼できる証拠を示すものである、気候行動は重要な政治的課題である、という考えを真っ向から否定するものです。これに対して後者は、気候変動が起きていることは認めつつも、それが人為起源だという点を疑う立場をとります。人間活動が気候変動を引き起こしているという科学的根拠を徐々に弱め、気候変動の社会的影響を矮小化し、気候政策の実現性や経済性を疑問視する説を広めます。

2)主要ターゲットは政策決定者(policymaker)

保守的シンクタンクや業界団体は、気候変動に関する重要な決定や行動に関与する人々、つまり政治家や政府職員に的を絞って情報を提供します。こうした情報の大半は不正確で信頼性を欠きますが、通常、その情報源や伝達方法が市民の監視の目に触れることはない、と報告書は指摘しています。

3)気候科学に対する市民の信頼の減退

誤情報はSNSやマスメディアにより拡散され、その蔓延のために市民は気候科学を信頼できなくなります。持続可能な未来に向けて取り組む団体に対して疑念を抱き、何をしても世の中は変わらないという無力感を抱くようにもなります。そして、だんだん気候変動に対する関心を失っていきます。

私たちに求められるリテラシー

こうした現状を打開するための政策オプションとして、報告書では、①法律(legislation)、②訴訟(litigation)、③(誤情報に対抗するための)意志ある者の連携(coalition of the willing)、④教育(education)を挙げています。

一市民として何ができるのかと考えたとき、私が特に気になったのは教育の側面でした。これについて報告書では、教育を通して市民と政策決定者の科学リテラシー(scientific literacy)とメディアリテラシー(media literacy)を高め、その幅を広める必要があると指摘しています。literacyは読み書きの能力を指しますが、(ある分野における)知力や能力を意味する場合もあります。経済協力開発機構(OECD)による2015年の国際学習到達度調査(PISA)では、科学リテラシーを「思慮深い市民として、科学関連の問題や科学の概念について関与する能力」と定義しています*1。これは科学者や技術者に限らず、誰もが身につけるべき能力です。そしてメディアリテラシーは、「特にこのオンライン誤情報・偽情報の時代における消費者として、マスメディアを解析または制作するために批判的思考を用いる」ことを意味します(Britannica)*2

改めて、今の時代、私たち市民に求められるリテラシーとは何か――それは、気候変動をはじめとする現代社会の諸問題について、まず関心を持つこと。そして見聞きする情報を鵜呑みにせず、安易に肯定も否定もせずに、十分に調べること。その上で、自ら得た知識を基盤として、自分自身の考えを持つ能力ではないかと思います。誤情報・偽情報に踊らされないよう、こうした能力を身につけることの重要性が、いつにも増して高まっています。

 

*1 原文は以下。
Scientific literacy: The ability to engage with science-related issues, and with the ideas of science, as a reflective citizen. (p.15)
*2 原文は以下。
Media literacy: use of critical thinking to parse or create mass media, especially as a consumer in an age of online misinformation and disinformation.
(Scientific literacy、media literacyともに様々な定義があり、上記はその一例です。)

このエントリーをはてなブックマークに追加