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森林破壊を防ぐために実践すべき新たな原則 「カスケード利用」とは?

(Photo by Martin Herfurt via Pixabay)
欧州連合(EU)で気候変動対策として再生可能エネルギーを促進するために制定され、2009年に発効した「EU再生可能エネルギー指令(RED: Renewable Energy Directive)」。この指令では、木質バイオマスエネルギーも風力やソーラーなどのクリーンなエネルギーと同等にみなされ、推進されてきました。
REDは、2018年の1度目の改定(RED II)を経て、2023年11月20日に2度目の改定版(RED III)が発効しました。そしてこのとき、「the principle of the cascading use of biomass(バイオマスのカスケード利用の原則)」が盛り込まれました。
「カスケード」利用とは何でしょうか?
カスケードとは
Cascadeを『ランダムハウス英語辞典』で引くと、次のように説明されています。
【1】(険しい岩場を落ちる)滝
【2】(天然または人工の)小さい[段になって落ちる]滝

(Photo by Deleece Cook via Unsplash)
このように段々になっている滝は日本にもたくさんあると思いますが、意外にもこれを一言で表す日本語は思いつきません。人工のものは、階段式溢流路(いつりゅうろ)、あるいは階段状の水路などと表現されているようです。
ここから転じて、カスケードは次の意味にも使われています。
【10】《経営》(職階別による情報の)段階的伝達、そのための会議
RED IIIにおけるカスケード利用の原則とは
国際環境NGO FoE Japanが発行した日本語版『Wiser with Wood 賢い木材の使い方 森林、気候、公衆衛生および他の木材利用産業をより適切に保護するためのEU 再生可能エネルギー指令改定版(RED III)国内法化ガイド』で、RED IIIのカスケード利用の原則(cascading principle)に関する部分は次のように説明されています。
加盟国は、木質バイオマスが、以下の優先順位に従って、その最も高い経済的および環境的付加価値で使用されるように、支援スキームを設計しなければならない:(1)木材製品、(2)木材製品の耐用年数の長期化、(3)再利用、(4)リサイクル、(5)バイオエネルギー、(6)廃棄。
つまり、「木質バイオマスを利用する用途としては、まず木材製品の材料として使うことを優先する。その次に、木材製品の耐用年数を長期化させるために利用することを検討する。その次に再利用すること、そしてリサイクル(再資源化)することを検討する。それが不可能なときにはじめてバイオエネルギー源として、燃焼して発電することに用いる。それもできない木質バイオマスは廃棄する。」ということです。すなわち、例えば材木にもできそうな丸太を伐採してきて木質ペレットをつくり、これを燃焼してバイオマス発電をしたりするのはやめましょう、ということが示唆されます。
この背景には、化石燃料を削減しようとするあまりにバイオマス発電用に森を皆伐すれば、生物多様性の面でも、他の木材関連産業の材料不足という点でも、新たな問題を引き起こす、という危惧があります。さらには欧州LULUCF(土地利用・土地利用変化及び林業)規則で示される、カーボンシンク(炭素吸収源)としての森林が持つCO2削減効果の点でも、新たな問題を引き起こす点でも懸念されています。
森林破壊が気候変動を加速させることは、専門家がこれまで繰り返し警告しています。自然環境の保全に悪影響を及ぼさない気候変動対策が進むよう願っています。
参照:
・FernおよびClientEarth、『Wiser with Wood: A guide on how to transpose the EU’s revised Renewable Energy Directive (RED III) to better protect forests, the climate, public health and other wood-using industries』2023年
・FoE Japanプレスリリース:『Wiser with Wood 賢い木材の使い方』改定EU再エネ指令(REDIII)ガイドの日本語版を公開―バイオマスによる森林破壊を防ぐために活用を(2024年5月17日)
(五頭美知/翻訳者)
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