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生態系保全より開発を優先する米国の動向 キーワードはharm

(Photo by Mateusz Bajdak via Unsplash)
米国のトランプ政権は化石燃料の増産などを政策に掲げ、開発を優先する姿勢を打ち出しています。先日、その姿勢が強く感じられる出来事がありました。
米国の種の保存法の最新動向
今年4月、米国魚類野生生物局と米国海洋漁業局は、米国の種の保存法(Endangered Species Act: ESA)における規制上の用語について、解釈の変更を提案しました。
ESAでは、絶滅危惧種に対してtakeという行為を原則禁止しています。そしてtakeとは、harass(苦しめる)、harm(害を与える)、pursue(追い立てる)、hunt(狩る)、shoot(撃つ)、wound(傷つける)、kill(殺す)、trap(わなにかける)、capture(捕える)、collect(収集する)、もしくはこうした行為を試みることであると定義されています。
この一連の行為のうち、harmは、実際に野生生物を殺すもしくは負傷させる行為を意味しますが、こうした行為には繁殖、摂食、避難などの重要な行動パターンに深刻な害を及ぼすことにより実際に野生生物を殺すもしくは負傷させるような、生息地の著しい改変や劣化も含むことができるとされています(連邦規則集(第50巻§17.3)。
今回の提案は、上記の「生息地の著しい改変や劣化」は他の行為とは異なり特定の種を意図的に対象とするものではないため、harmの定義に含めるべきではない、とするものです。これが認められれば、ESAが禁止する行為の幅は狭まり、絶滅危惧種の生息地において開発活動ができるようになる可能性があります。harmという一つの用語の法的解釈によって、米国の森林などの状況は大きく変わりうるのです。
目的に立ち返って判断を
たしかに、生息地の改変や劣化は、takeに連ねられる他の行為とは性質が異なるかもしれません。しかし、例えば国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト掲載種のうち、生息地の喪失が主要な脅威だとされている種は85%に上ります。また、世界自然保護基金(WWF)の『生きている地球レポート2024』によると、野生生物種の個体群を分析した「生きている地球指数(LPI)」は、1970年から2020年の50年間で73%減少しており、その背景として世界各地で最も多く報告されている脅威は生息地の劣化と喪失です。たとえ特定の種を対象とする行為ではなくても、生息地の改変や劣化が種の生存に深刻な影響を及ぼすことは、こうした数字からも明らかです。
ESAの目的は以下のように記されています。
Purposes.―“The purposes of this Act are to provide a means whereby the ecosystems upon which endangered species and threatened species depend may be conserved, to provide a program for the conservation of such endangered species and threatened species, and to take such steps as may be appropriate to achieve the purposes of the treaties and conventions set forth in subsection (a) of this section.”
(試訳)目的――本法の目的は、絶滅危惧種および絶滅危機種が依存する生態系を保全できる手段を提供すること、そうした絶滅危惧種や絶滅危機種の保全計画を提供すること、そして本節(a)款に示す条約や協定の目的を達成するために適切な措置を取ることである。
この目的に立ち返り、科学に基づく賢明な判断が下されることを期待したいところです。
(試訳は筆者によるものです。)