SDGsへの取り組みがもたらす「スピルオーバー」とは

(Photo by rony michaud via Pixabay)

国際ネットワークSustainable Development Solutions Network(SDSN)が持続可能な開発目標(SDGs)の進捗評価をまとめ、毎年発表している「持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report)」。その2024年版が先日公開されました。

世界的な取り組みに関する内容ならではの表現として、同報告書で重要な指標の一つとされているspilloverについて考えます。

正だけでなく、負のspilloverにも注目

主に経済学の文脈で目にする「スピルオーバー効果」は、当事者以外にも便益が及ぶことを意味します。「効果」という日本語からも、基本的には良い意味での影響が他に及ぶことを表しているといえそうです。

しかし、元になっている英語spilloverは以下のように定義されています:

the effects of an activity that have spread further than was originally intended
(ある活動の影響が当初意図した範囲を超えて広がっていくこと)

[Cambridge Dictionaryより引用]

この定義から分かるように、もともとの意味は必ずしも正の影響に限ったものではありません。実際、2024年版の同報告書では、先進国による大量消費が他国で森林破壊をはじめとする環境問題や労働搾取などの社会問題を引き起こしうる点が指摘されており、まさに負の影響が他に広がっている事例です。真に持続可能な社会を実現するには、そうした負の影響をしっかりと認識する必要があり、そのためにも毎年の評価ではスピルオーバー指標が重要視されているのです。

似て非なる表現との違いを押さえて適訳に

spilloverという言葉のイメージがつかめてくると、同じような表現として「相乗効果」を意味するsynergyや、「乗数効果」と訳されることが多いmultiplier effectが思い浮かびます。これらとspilloverの大きな違いは、前述のとおり、負の影響も含むかどうかで、synergyもmultiplier effectも基本的には良い影響について使われる表現といえます。

それとは別に、影響の広がり方の違いも押さえておきたいところです。原語(英語)の持つニュアンスを注意深く見てみると、spilloverは双方向ではなく一方方向にじわじわと漏れ出ていくイメージ、synergyは互いに影響し合って効果を高めていくイメージ、multiplier effectは掛け合わさって雪だるま式に効果が膨らむイメージが浮かびます。

そうした違いを意識することで、背景や文脈に合った表現を提案でき、読み手に正確に意図が伝わる説得力のある訳文にできると考えています。

※括弧内の訳は筆者による試訳です。

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