Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
社会の分極化(polarization)とどう向き合うか

(Photo by Marek Studzinski via Unsplash)
米国の英語辞書メリアム・ウェブスターは、大統領選が行われた2024年の世相を表す「今年の言葉」にpolarization(分極化)を選びました。
分極化する米国
メリアム・ウェブスターによるpolarizationの語義は以下の通りです。
division into two sharply distinct opposites; especially, a state in which the opinions, beliefs, or interests of a group or society no longer range along a continuum but become concentrated at opposing extremes.
(試訳)正反対のものに、真っ二つに分かれること。特に、ある集団や社会の意見や信条、関心に連続的な領域がなくなり、両極に集中する状態を言う。
皮肉なことに、「社会が分極化している」という点については政治的立場の左右にかかわらず意見が一致していると、メリアム・ウェブスターの辞書サイトは指摘しています。2025年、第2次トランプ政権下の米国は、そして世界は、どこへ向かうのか――社会の分極化を止めるすべはないのでしょうか。
pluralismの実践を
この問いに向き合う上で一つのヒントになるのが、pluralismという概念です。
pluralismには、以下の意味があります。
◆社会的多元性《一国内に人種・宗教などを異にする集団が共存する状態》――リーダース英和辞典第3版
◆(人種・宗教・政治信条などの)平和的な多元的共存――新編英和活用大辞典
オバマ元大統領は2024年12月、自身の財団が主催する「民主主義フォーラム」で演説し、健全な民主主義の根底をなす重要な要素としてpluralismを挙げました。そして、民主主義社会においては、様々な点で自分と異なる人や集団と共に暮らしていく方法を見いださなければならない――互いにある程度の寛容さを持ち、相違があってもときには手を組んで共同で事に当たる努力が必要だと述べました。
pluralismの実践には、自分のアイデンティティや経験を大切にしながら、他者のアイデンティティや経験も理解し、見解の一致する点を探すことが求められます。たとえ多くの点で意見が対立していても、何か一つでも接点があれば、それは重要な協働の機会になります。そして、意見を異にする他者に歩み寄り、友好的な関係を築くことは、長期的な変化をもたらす上で最適の手段なのだと、オバマ氏は述べています。
現在、米国のみならず、世界の多くの国で社会が分極化し、意見対立が深刻化しています。そんな状況を見ると、平和的な多元的共存など無理なのではないかと考える人や、そんなものは机上の空論にすぎないと断じる人もいるかもしれません。両極に離れてしまった人々の距離を縮めるのは容易ではなく、時間もかかるでしょう。でも、今だからこそ、この現状を打開するために何ができるのかを考え、行動する必要があるとも言えます。
pluralismが求められるのは米国だけ、政治の世界だけに限りません。前出の「民主主義フォーラム」では、市民レベルでこれを実践する若い世代も登壇し、米国内外での活動について語っています※。2025年という新しい年に、学校、地域、職場などの身近な場所でこうした問題意識が育まれ、平和的な多元的共存に向けた具体的な行動が広がっていくことを期待します。
(試訳は筆者によるものです。)
※民主主義フォーラムでのオバマ元大統領の演説とそれに続くパネルディスカッションの様子は、こちらから視聴できます。