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biodiversity darkspotsから考える 生物多様性と情報共有
biodiversity darkspotsとは
生物多様性の用語の一つに、biodiversity hotspots(生物多様性ホットスポット)という言葉があります。コンサベーション・インターナショナルによると、ホットスポットとは「地球上で生物学的に特別豊かでありながら、同時に破壊の脅威にさらされている場所」で、具体的には、以下の基準を満たす地域です。
・1,500種以上の固有維管束植物があること。
・原生環境の70%以上が消失していること。
そして近年、biodiversity darkspots(生物多様性ダークスポット)という言葉も目にするようになりました。国連環境計画(UNEP)のサイトによるとdarkspotsとは、地理的・分類学的データが不足しているために、科学者が生物多様性についてまだ確認できていない地域を言います。今年8月に発表された論文では、世界各地に33カ所の生物多様性ダークスポットが特定されています。地球上には未発見の植物種が10万種あると推定され、そのうちの7万5000種以上が絶滅の危機にあると言われています。そして未発見の植物の多くが、ダークスポットに生息すると考えられています。こうした植物の保全は、生態系の維持においても、将来的に医薬品や燃料、食料などに利用できる可能性という面からも重要であり、調査を急ぐ必要があると研究者は指摘しています。
生物多様性とSNSの功罪
一方、近年、問題となっているのが、生物多様性に対するSNSの影響です。希少な動植物の写真があっという間にインターネットを介して共有される時代となり、撮影場所も特定しやすくなりました。それらを一目見よう、写真に収めようとする人たちが生息地に入ることにより、動物は行動学的・生理学的な影響を受け、植物は踏み荒らされる危険にさらされます。人間が病気を持ち込む、動植物が密猟や盗掘に遭う、といった問題も発生します。生物多様性ダークスポットも、調査が進み、新種生物の情報が広く共有されるようになれば、こうした危険にさらされるかもしれません。
生物多様性の重要性に対する理解を広めるためには、まず興味を持ってもらう必要がありますが、情報そのものが貴重な生態系や動植物の生存を脅かす要因にもなり得ます。こうした状況を改善するために、SNS上での動植物に関する情報発信について倫理規則を作り、規制を厳しくすることを求める意見もあります*。生物多様性の調査活動が急がれるなかで、今、野生生物に関する情報発信のあり方も、見つめ直すことが求められています。
* Robert A. Davis, Claire Greenwell, Belinda J. Davis, Philip W. Bateman. “Liked to death: the impacts of social media and photography on biodiversity,” Science of The Total Environment, Volume 949, 2024.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969724052562?via%3Dihub