名前の変わる生物たち その背景にあるものは

2024 / 8 / 2 | カテゴリー: | 執筆者:Yukiko Mizuno

(Photo by Sarah Brown via Unsplash)

今年7月、国際植物学会議(International Botanical Congress)の一環として開催された命名法に関する会合で、差別的な言葉を含む学名を変更することが決まりました。

 生物の名前に潜む差別語

今回、議題に上ったのは、caffraという言葉を含む植物や菌類、藻類の学名です。caffraは、かつて南アフリカで黒人に対して用いられた差別用語kaffirに由来します。非常に不快で人種差別的であるため、現在はめったに使用されない言葉です。一方で、caffraを含む学名は、200種以上もあるのです。これらは今後、アフリカ起源であることを示すaffraに置き換えられることになります(例えばErythrina caffraという学名は、Erythrina affraに変更されます)。今回の決定は、南アフリカのネルソン・マンデラ大学の植物分類学者ギデオン・スミス教授らによる、長年の働きかけの末に実現しました。

生物の名前には、命名された時代の社会を反映するものがあり、今ではもう使われることのない差別語が残っていることも、決して珍しいことではありません。これは学名に限ったことではなく、一般名(英名や和名)も同様で、その見直しも行われています。例えば、米国の鳥学会は、2023年11月に、人物の名前(負の歴史と関わりのある人物など)にちなむものや、不快または排除的な響きのあるものについて、英名を見直すと発表しています。日本でも、2007年に日本魚類学会の呼びかけにより、1綱2目・亜目5科・亜科11属32種について、差別的な標準和名が改名されました。これに伴い、例えば、メクラアナゴはアサバホラアナゴに、イザリウオはカエルアンコウに改名されています。

身近な一般名、世界共通の学名、それぞれの大切な役割

和名や英名などの名前には、私たち市民が生物に親しむための言葉としての役割があります。日本魚類学会のサイトにも、「標準和名は学術的な名称であると同時に、魚類学の普及を担う重要な機能を併せ持つ」と記されています。一方の学名は、一般の人が目にする機会は少ないかもしれませんが、世界中の人々が用いる共通の名称として大切な役割を果たすものです。そして、ある言葉が今は使われていないとしても、それが差別を受ける側にとって不快な言葉であることに変わりはありません。

学名については、国際的に利用されるため、安定的で共通(stable and universal)である必要があり、こうした変更は混乱を招きかねないとする否定的な意見もあります。既存生物種の名前の扱いについては、今後も活発な議論が続きそうです。

一方、新種の生物に目を向けると、国際植物学会議では、2026年以降に発表されるものについて、不快感を与える名前や軽蔑的な名前がないかを委員会で審査することを決定しています。こうした動きが植物以外の生物に対しても広がっていくことを期待します。

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