GRIとTNFDの相互運用性マップを活用して報告の負担軽減を

Photo by Mohammed Mohammed via Pixabay

GRI(Global Reporting Initiative)TNFD(The Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)は、GRIスタンダードとTNFD開示提言の相互運用性(interoperability)をまとめたマップを発表しました。
2023年9月に発表されたTNFDの提言にはGRIの視点が、2024年1月に大幅に改訂された生物多様性に関するGRIスタンダードにはTNFD提言の要素が、それぞれ盛り込まれる形で「相互運用性」の向上が目指されてきました。

マップで注目したい2つの基準の「違い」

今回発表されたマップには、TNFD提言の4つの柱「ガバナンス(Governance)」、「戦略(Strategy)」、「リスクとインパクトの管理(Risk and impact management)」、「測定指標とターゲット(Metrics and targets)」と、GRIスタンダードの開示事項を対応させる形で表にまとめられています。

ここで注目したいのが、それぞれの基準で求められる情報の相違点です。
マップとともに公表された説明資料には、high-level differences between TNFD and GRI approaches(試訳:TNFDとGRIのアプローチの大局的な違い)が表にまとめられています。

たとえば、TNFDのアプローチでは

The material information to be disclosed in alignment with the TNFD Recommendations and metrics includes nature-related dependencies, impacts, risks and opportunities.
試訳:TNFD提言・指標に沿って開示される情報には、自然関連の依存、インパクト、リスクと機会が含まれる。

とある一方、GRIについては次のように明記されています。

The GRI Standards focus on impacts, not on dependencies, risks and opportunities.
試訳:GRIスタンダードでは、依存やリスクと機会ではなく、インパクトに注目する。

GRIではあくまで生物多様性へのインパクトに絞って開示を求められますが、財務情報の開示基準であるTNFDでは、事業活動がどの程度自然に依存しているか、組織にとってどのようなリスクや機会があるのか、といった事業への影響という観点も大事な要素になります。

また、マップには「Comment」という欄が設けられ、対応する開示項目であっても、それぞれの基準で報告すべき情報に具体的にどのような違いがあるのかが記載されています。

相互運用性向上の先に目指すもの

GRIは、TNFDだけでなく、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)IFRS財団との相互運用も目指すと発表しています。

GRIの関連組織であるGSSBの議長は、こうした動きの目的を次のように話します

Not only does this reinforce the applicability and integration of the GRI Standards in global markets, it will minimize reporting burden for organizations.
試訳:(他の国際基準との連携により)国際市場におけるGRIスタンダードの適用性や統合が進むだけでなく、組織の報告負担が最小化されるでしょう。

様々な基準がつくられ、企業に対する情報開示の要請が高まる中、ともすれば報告すること自体が目的になってしまいかねません。しかし実際、その先には「持続可能な未来のために」という共通する大きなビジョンがあるはずです。その実現のために、今後様々な基準との間でさらに相互運用性が向上して、組織の負担が減り、報告が組織としてどうあるべきかを考える機会として今以上に活用されていくことを期待します。

エコネットワークスでは、「GRI 101:生物多様性」の英日翻訳を担当しました。

※引用文の太字および試訳はすべて筆者によるものです。

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