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人権擁護のため、政府は気候変動対策を行うべき 欧州での画期的な判決
欧州人権裁判所(ECHR: European Court of Human Rights)が2024年4月、人権を守るために国は気候変動対策をとる責任があると認める判決を出しました。
この裁判は、スイスの高齢女性2,000人以上から成る団体が、スイス政府が気候変動対策を十分にとっていないせいで、欧州人権条約第8条「私生活および家族生活の尊重」などが侵害されていると、ECHRに訴えていたものです。ECHRが地球温暖化について判決を下したのは今回が初めてのことです。
欧州人権条約とは
欧州人権条約(European Convention on Human Rights、正式名称はConvention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms「人権および基本的自由の保護のための条約」)は、1950年に欧州評議会(CE: Council of Europe)で制定され、1953年に発効しました。第8条は次のとおりです。
英文
ARTICLE 8
Right to respect for private and family life
1. Everyone has the right to respect for his private and family life, his home and his correspondence.
2. There shall be no interference by a public authority with the exercise of this right except such as is in accordance with the law and is necessary in a democratic society in the interests of national security, public safety or the economic well-being of the country, for the prevention of disorder or crime, for the protection of health or morals, or for the protection of the rights and freedoms of others.
和訳
第8条
私生活および家族生活の尊重を受ける権利
1 すべての者は、その私的および家族生活、住居ならびに通信の尊重を受ける権利を有する。
2 この権利の行使に対しては、法律に基づき、かつ、国の安全、公共の安全もしくは国の経済的福利のため、また、無秩序もしくは犯罪の防止のため、健康もしくは道徳の保護のため、または他の者の権利および自由の保護のため、民主的社会において必要なもの以外のいかなる公の機関による介入もあってはならない。
判決による影響
この判決は、今後スイスをはじめ欧州各国の気候政策に影響を及ぼすと考えられます。判決が出た日には、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんも仏ストラスブールにあるECHRまで駆けつけました。
原告となった女性たちは、スイスで熱波が発生した際に家から出られず健康被害を受けたとの主張で裁判を起こしていましたが、一方で、この訴訟は自分のためではなく、子や孫のために行ったのだとBBCのインタビューに答えています。
未来の世界でも人が人らしく生きていけるように、政府には気温上昇を抑える実効性のある政策を策定し実行する責任がある――確かにその通りだとすんなり理解できるのは、裏を返せば、水害や山火事など近年の気候変動による自然災害が世界的にあまりにすさまじく、明らかに人々の日常生活が脅かされている現状があるからにほかなりません。人権擁護という新たな視点からも、気候変動対策が進むよう望みます。
(五頭美知/翻訳者)