今こそCritical Thinking(批判的思考)を

2023 / 12 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:Yukiko Mizuno

(Photo by Lucie Hošová via Unsplash)

英ケンブリッジ大学出版局は、今年の言葉(Word of the Year 2023)に「hallucinate」を選びました。

AIがもたらす幻覚

同出版局では今年、AIに関連する多くの新語を辞書に載せ、既存の言葉に新たな語義を追加しています。hallucinateもそうした言葉の一つで、元は「(主に健康状態や薬物摂取を原因として)幻覚を体験する」という意味の動詞ですが、今回、下記の語義が加えられました。

When an artificial intelligence hallucinates, it produces false information.
(試訳)人工知能がhallucinateする場合、人工知能は誤った情報を提示する。

つまりAIに関する文脈において、hallucinateは、「誤情報を提示する」ことを指します。情報の正誤が判別しにくく、利用する側の人間が惑わされてしまうことから、幻覚を起こすという意味を持つこの言葉が使われるようになったのでしょう。

誤情報に惑わされないために

ケンブリッジ大学出版局は、AIの情報の信頼性に関連してこう指摘しています。

AI hallucinations remind us that humans still need to bring their critical thinking skills to the use of these tools.
(試訳)AIによる誤情報の提示は、こうしたツールの活用において、人間は今なおクリティカル・シンキングの能力を用いなければならないことに気づかせてくれる。

クリティカル・シンキング(批判的思考)とは、「論理的、分析的で、証拠に基づく偏りのない思考であり、自分の推論過程を意識的に吟味する反省的思考」です(楠見, 2014)。そしてこれを実践するには、「安易に鵜呑みにしない」、「常識や思い込みにとらわれない」、「議論の前提も含めて問い直す」といった態度が求められます。残念ながら日本の義務教育において批判的思考をする機会は少なく、OECDの「国際教員指導環境調査」(第三回、2018年)の結果によると、日本は圧倒的最下位です。

今後、AIはますます日常生活の中に入ってくると予想されます。誤情報の問題は技術の進歩とともに改善されるかもしれませんが、目にする映像、読む文章、耳にする情報を鵜呑みにせずに批判的思考を実践することの重要性は、今後も高まりこそすれ低くはならないでしょう。もっともらしい情報に惑わされることのないよう批判的思考力を鍛えること、そして次世代を担う子どもたちが批判的思考について学び、その力を身につける機会を増やしていくことが大切だと思います。

※右のサイトより引用 https://www.icu.ac.jp/news/2201281500.html

(試訳は筆者によるものです。)

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