地球の健康診断 プラネタリー・バウンダリー最新の評価結果は?

2023 / 10 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:Yukiko Mizuno

(Photo by Tumisu via Pixabay)

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)は、2009年にストックホルム・レジリエンス・センター所長(当時)のヨハン・ロックストローム博士らが発表した概念で、下記の9項目についての臨界点(人類が将来も発展し繁栄し続けられるかどうかの分かれ目となる点、つまりそれを超えてしまうと不可逆的な変化が起こりうるという境界)を示すものです。

●気候変動
●新規化学物質
●成層圏オゾンの破壊
●大気エアロゾルの負荷
●海洋の酸性化
●窒素とリンの循環
●淡水の変化
●土地利用の変化
●生物圏の一体性

※項目名は幾度か変更されており、上記は最新版の試訳(英語は下図を参照)。

満身創痍の地球

今年9月、初めて9つの指標すべてについての評価結果が報告されました。いわば「地球全体を対象とした科学的な健康診断」ですが、その結果によると、9項目のうち6つが限界を超え、2つ(大気エアロゾルの負荷、海洋の酸性化)が限界に近づいています。危険な状態にないのは「成層圏オゾンの破壊」のみ。地球は「人間が安全に活動できる領域を大きく外れてしまった」と研究者は警告しています。

プラネタリー・バウンダリーを理解する上で重要なのは、各項目はそれぞれ独立したものではなく、地球の複雑な生物物理学的システムの中で相互に関係し合うプロセスだということです。つまり、ある一つの項目の改善に取り組んでも、他の項目が限界を超えてしまえば、その達成は難しくなる場合があるのです。気候変動についても(ただでさえ対策は思うように進んでいませんが)、他の多くの項目の状況がこのまま悪化し続ければ、1.5℃目標を達成できる可能性はますます低くなってしまう恐れがあります。地球の「健康」を回復するためには、多様な課題に対する取り組みを進めていかなければなりません。

(c) Azote for Stockholm Resilience Centre, based on analysis in Richardson et al 2023

成功例を糧に前進を

報告書の共著者の一人は、以下のように語っています。

Ultimately, it highlights the environmental consequences of living in the Anthropocene, and our responsibility as future stewards for the planet.
(試訳)つまるところ、このプラネタリー・バウンダリーの評価は、人新世(Anthropocene)に生きることが環境にどのような結果をもたらすかを示すものです。地球の未来を守る者としての私たちの責任を示すものでもあります。

今を生きる私たちの責任を思うとき、勇気を与えてくれるのが「成層圏オゾンの破壊」の評価結果です。1990年代には限界を超えていましたが、国際的な取り組みによってオゾン層を破壊する化学物質が規制されたため、この項目は安全な領域に回復しました。

将来の世代に少しでもよい環境を残せるよう、こうした成功例を糧に、他の分野での取り組みも前進させていくことが求められます。

※試訳は筆者によるものです。

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