持続可能な食のコールドチェーン実現のために

2023 / 8 / 6 | カテゴリー: | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)は昨年、『Sustainable food cold chains』(仮題:持続可能な食のコールドチェーン)と題する報告書を発表しました。コールドチェーンとは、低温管理が必要な生鮮食品や医薬品などを生産・輸送・消費の過程で途切れされることなく流通させる仕組みのこと。世界が直面する食の問題、ひいては社会・環境問題の解決のカギを握るコールドチェーンの重要性が注目されています。

コールドチェーンの不足がもたらすさまざまな影響

世界では今も十分な食料を得られず飢餓や栄養不足に苦しむ人々が多くいる一方、生産から消費に至るさまざまな段階で大量の食料が無駄に失われています。この問題の一因として考えられるのがコールドチェーンの不足であり、前述の報告書によると、2017年にはこれに起因する食品ロスが世界全体で5億2600万トンにのぼり、食料生産全体の12%を占めたとされています。
食への直接的な影響だけではありません。世界の温室効果ガス排出量の4%はコールドチェーンの不足によるものであり、4億7000万の小規模農家の収入減少の一因にもなっていると見られています。

必要なのはend-to-end systems approach

このように影響が多岐にわたる点を踏まえると、これからのコールドチェーンを構築する際に必要なのはend-to-end systems approachだと報告書は提案しています。

One has to take an end-to-end systems approach, considering dynamic and interconnected relationships and feedback loops between processes as well as social, economic and environmental outcomes within the whole system.

(試訳:システム全体で生じる社会・経済・環境面の結果だけでなく、さまざまなプロセスの間で常に変化し、相互に作用し合う関係性やフィードバックループを考慮して、全体的なシステムアプローチを取らなければならない)

「隅から隅まで」を意味するend-to-endですが、問題の性質を考えると、ここでは今の世界全体を捉えるというだけに留まらず、未来を含む時間軸全体という意味合いを含むと解釈することもできそうです。また、systemsと複数形であることから示唆されるのは、社会、経済、環境は個別の独立したシステムではなく、互いに関連し、影響し合うものであり、そのつながりこそが重要であるという点です。これらを踏まえて解決策を設計しなければ、いずれどこかに歪みが生じて真の解決にはつながりません。

これは、持続可能なコールドチェーンの実現に向けたアプローチであると同時に、グローバル化による恩恵を日々受けている私たちが常に意識しておくべき視点だと思います。

※試訳は筆者によるものです。

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Photo by Mishaal Zahed via Unsplash

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