OECD多国籍企業行動指針改訂 「有意義なステークホルダーエンゲージメント」とは

ステークホルダーエンゲージメントの画像

今年6月、12年ぶりにOECD多国籍企業行動指針が改訂されました。国際的なデューディリジェンスの法規制化や環境課題、テクノロジー等の進展を受けて、特に早急な対応が必要な箇所に絞った”targeted update”が行われています。改訂のポイントはこちらにまとめられている通りさまざまにありますが、その中の一つが、”Meaningful stakeholder engagement(有意義なステークホルダーエンゲージメント)”への期待の明確化です。

「有意義なステークホルダーエンゲージメント」とは

Chapter II: General Policiesの解釈の手引きの28項は、「有意義なステークホルダーエンゲージメントは、デューディリジェンスプロセスの重要な要素である」という文で始まります。そして、「ステークホルダーエンゲージメントそのものが権利であるというケースもある」と続きます。

なお、ここでいう「ステークホルダー」とは、多国籍企業行動指針では次のように定義されています。

Relevant stakeholders are persons or groups, or their legitimate representatives, who have rights or interests related to the matters covered by the Guidelines that are or could be affected by adverse impacts associated with the enterprise’s operations, products or services.
仮訳:関連するステークホルダーとは、本指針に含まれる事項に関連する権利や利害関係を有し、企業の事業や製品・サービスに関連する負のインパクトによって影響を受ける、または受ける可能性のある個人もしくは集団、またはその正当な代表者である。

つまり、多国籍企業行動指針におけるステークホルダーエンゲージメントとは、デューディリジェンスの一環として、ステークホルダーへの「負のインパクト」に対処するためのものであると解釈できます。

さらに読み進めると、”Meaningful stakeholder engagement”の要件として、以下の点が説明されています。

・継続的であること
・双方向であること
・双方が誠実に対応すること
・ステークホルダーの声に応じること
・ステークホルダーにとってタイムリー、アクセス可能、適切、安全であること
・脆弱・社会的に阻害されたステークホルダーがエンゲージメントに参加する際に想定される障壁を特定し、排除すること

日本企業と国際規範のギャップ

先日、こちらの国際シンポジウムを視聴していたところ、「有意義なステークホルダーエンゲージメントは、日本企業の取り組みと国際規範の期待事項との間に大きなギャップがある領域の一つ」と有識者の方が説明されていました(ちなみに、その他ギャップが大きなものとしては、「バリューチェーンを通じたデューディリジェンス」と「是正・救済のための苦情処理メカニズム」の二つが挙げられていました)。

確かに、多くの企業がサステナビリティレポート等で「ステークホルダーエンゲージメント」に言及していますが、「負のインパクト」に対するエンゲージメントについて十分に説明されているでしょうか。さらにその際、上記の「有意義な」ステークホルダーエンゲージメントの要件をどのくらい満たしているでしょうか。人権領域においては、日本政府の動きの活発化も受け、人権の負の影響に対処するエンゲージメントが急速に進みつつあると思われますが、多国籍企業行動指針でカバーされている「責任ある企業行動(RBC)」は人権だけではありません。

有意義なステークホルダーエンゲージメントのために

負の影響が及んでいるステークホルダーの声を聞こうとする中で、認めがたい現実と向き合うこともあるでしょう。さらにそれを開示するのは、自社の弱みを自ら社会に晒すこととなるため、後ろ向きになってしまうこともあるかもしれません。あるいは、まだ進行中で決着していない対話について公表することに抵抗があるかもしれません。しかし本来、ステークホルダーエンゲージメントとは、取り組み改善の機会となる場です。そしてそれを公表してこそ、さらに対話が進み、よりよい解決策が導き出される可能性が高まります。

上述のシンポジウムで、別の有識者の方が、「エンゲージメントにおいては、思い通りに進めようとするのではなく、傾聴することが大切」と仰っていました。これも、ステークホルダーと誠実に向き合い、声に応じるために、意識したいポイントです。

 

こちらの記事もあわせてご覧ください。
BMWのエンゲージメント方針にみる対話の作法
物価上昇への対応 大企業から波及させていくために
これからの労働組合の役割とは?

Photo by Headway via Unsplash

このエントリーをはてなブックマークに追加