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創造力を生む work-work balanceを
「いつ」、「どこで」仕事をするのかを選べる働き方をAsynchronous work(アシンクロナスワーク)と呼びます。リモートワーク(会社以外の場所で働く勤務形態)と似ていますが、アシンクロナスワークは場所にも時間にも束縛されない「非同期型」の働き方です。生産性や効率性の向上に役立つと言われますが、多様な人材の創造力を引き出すのにも効果的であることが最近の調査で指摘されています。
創造力は安心できる環境で発揮される
今年4月、マネジメント誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』に、インドの民族音楽バウルの音楽家を対象としたアシンクロナスワークの研究が報告されました。これによると女性の唄い手は、男性の唄い手や演奏者も一同に介する「同期型」(synchronous)の場よりも、一人で唄える非同期型の場の方が、創造力を発揮してのびやかに唄えるそうです(技術の進歩のおかげで、別々に唄って録音した音を後から合わせることができます)。この研究結果は、社会的に弱い立場にある人は非同期型の環境の方が自由に自分を表現できることを示す一例です。
経済誌Forbesに掲載された別の記事では、同期型の環境で発言することにプレッシャーを感じる人は少なくないと指摘しています。上下関係の強い職場にいる若手や新入社員、会議などの場を精神的負担に感じる人。社内で使用される言語が母国語でないために、考えを表現するのに時間がかかる人もいます。さまざまな理由から、会議では(zoomなどのリモート会議でも)なかなか声を出せない人がいるのです。
多様な人材が豊かな創造力を発揮できるようにするためには、意見を述べるという行為に伴う不安を取り除く必要があります。どんなアイデアも頭から否定されることのない環境、誰もが「自分の考えが批判されるのでは」という不安を抱かずに発言できる環境をつくることが重要です。同じ場所、同じ時間に働くことを強要されないアシンクロナスワークは、そうした環境を提供できる働き方として注目されます。そしてリモートワークを支援する情報共有やコミュニケーションのツールは、アシンクロナスワークでも同じように威力を発揮します。
鍵はwork-work balance
もちろん、すべての業務を非同期型にすればいいというわけではありません。オンラインホワイトボードサービスを提供するMiroは、非同期型の働き方のデメリットとして、情報の混同や行き違いが生じる可能性や、孤独感を感じやすい、緊急性が感じられにくいなどの点を指摘した上で、work-work balance(ここでは、同期型のワークと非同期型のワークのバランス)が大事だと説明しています。
AIが普及していく世の中では、人間にしかない能力(=創造力)がこれまで以上に求められるようになると予想されます。コロナ禍を経てもなお、同期型の働き方の比重が極めて大きい日本社会において、創造力を引き出すアシンクロナスワークという働き方が、バランス良く取り入れられていくことを期待します。