Translators in Sustainability
ジェンダー平等の実現を超えて社会変革を gender-transformative
ジェンダー・トランスフォーマティブとは?
ユニセフや国際NGOプラン・インターナショナルなどが2020年からジェンダー平等の実現と社会の変革を目指すアプローチとしてジェンダー・トランスフォーマティブな教育やプログラムを提唱し実施しています。ジェンダー(性別)、トランスフォーマティブ(変革をおこすような)という言葉が組み合わさったこのアプローチは、ジェンダー主流化(gender mainstreaming、ジェンダーの視点であらゆる政策や事業などを組み立て実施し、組織を運営すること)を実践するものです。プラン・インターナショナルの「ジェンダー・トランスフォーマティブ・プログラムガイドブック」(日本語)からご紹介します。
女の子・女性のエージェンシー
プランが提唱するアプローチでは、以下の6つの要素を取り入れ、それぞれに働きかけながら単なる変化(change)ではなく重要かつ永続的な変化「transformation」を起こそうとしています。
1. ジェンダー規範(gender norm)
2. 女の子・女性のエージェンシー(agency of girls and women)
3. 男の子・男性のエンゲージメント(engaging boys and men)
4. 女の子・女性の状況と地位(empowerment of girls and women)
5. 多様性と包摂(diversity and inclusion*)
6. 社会制度と仕組み(social systems and mechanism*)
「agency」には、行動する力、どのような行動を起こすかを選択できる力*という意味があり、ガイドブックでは「自分の人生に関わる大切だと思う事柄について、自由に選択と意思決定をし、自分の目標に向かって行動ができる実現可能力」とあります。
「私は○○できる」という自信をもってやってみる。「何でスカートしかはけないの?」という疑問を声に出して周りに伝えることができる。そう言った知識や経験を得る環境を整えることはとても重要だと思います。石川金沢市では、小学生だったお子さんの「スカートは寒いからズボンがいい」という声を保護者の方が担任に伝えたところ許可がでました。保護者のエンゲージメントが、女の子のエージェンシーを高めた事例です。
さらにこの方は、県や市の教育委員会や学校に情報開示を求めて、金沢市内の小中学校、高校の校則情報をまとめたウェブサイトを開設しました。そして、子どもたちとの対話を協働する団体を設立、校則や学校での悩みについて話し合う交流会が月2回開催されるようになり、より多くの子どもたちの新たな声が上がっているそうです。
男の子・男性のエンゲージメント
ジェンダー不平等や女の子・女性に対する差別を解決しようと取り組む際、女の子・女性に対する有害なジェンダー規範や慣習、例えば「女の子・女性は控えめであるべき」「家事や育児を引き受けるべき」といったものに重点が置かれます。しかし、現実には男の子・男性もまた「男の子・男性は泣いてはいけない」「力強い行動やふるまいをするべき」といった「男らしさ(男性性、masculinity)」の強要に苦しんでおり、そのような男性の生きづらさが社会で課題として取り上げられるようにもなっています。
ガイドブックでは、男の子・男性が「有害な男性性のあり方」から解放され、ジェンダーに基づく規範と役割に変革を起こし、女の子・女性と対等な関係を築くことが必要であり、ジェンダー平等の達成に取り組むことが、男の子・男性にとってもよい結果をもたらすことが大切とあります。
対等な関係を築くヒントを、実際のプログラムの中に見つけました。ガイドブック52ページに、ファシリテーターは「参加者の差別的、偏見に基づく発言を放置しないこと」とあり、「もし、そのような発言があった場合は、参加者の間で異なる意見を持っている人がいるかを聞き、参加者同士の議論を通して多様な意見を聴く場、気づきの場を作る」よう促しています。
短絡的に「それは差別、偏見です」とファシリテーターが指摘するのではなく、時間がかかっても参加者の誰かの中にある、ジェンダー平等を求める声を集め、参加者全員の共通項を作り出す。さまざまな課題解決に通じるアプローチです。
次回は、6つの要素の後半について、まとめます。
参考資料
・「【石川】校則 大人と子が対話を 金沢の保護者 独自サイトで公開」(2023年5月5日、北陸中日新聞)
・UNICEF, Gender Transformative Education、(2021年12月)
・Plan International, Guidance Note: Gender Transformative Education and Programming、(2020年8月)
*:筆者による訳です。
※こちらの記事もあわせてご覧ください。
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