Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
supercharge 進む表現のアップデート
こちらのブログで以前、気候変動に関するさまざまな表現について、危機的な現状に沿った用語を取り入れていこうとする動きがあることをご紹介しました。2019年のことです。
例えば、「気候変動」(climate change)の代わりとして当時新しく提案された用語の一つに「気候危機」(climate crisis)がありますが、今では馴染みある表現として浸透しています。
その後も気候危機はいっこうにおさまる気配がなく、異常気象も激しさを増す中、最近ではさらに強い危機感を伝える表現を目にするようになってきました。
異常気象の猛威を表すsupercharge
オーストラリアの非営利団体Climate Councilが2022年に発表した報告書には、『A supercharged climate: Rain bombs, flash flooding and destruction』 というタイトルが付けられています。
「豪雨」がrain bombsと表現され、単なる「洪水」でなく突発的に勢いよく水が押し寄せる現象を強調してflashで形容されている点が、より強い危機感を伝える表現として印象的です。そして、もう一つ注目したいのが、これらと併用されているsuperchargedという単語です。
「スーパーチャージャー」という日本語に馴染みがある方もいらっしゃるかと思いますが、通常は自動車関連の用語として見かけることが多く、内燃エンジンがより多くの空気を取り込み、燃料をたくさん燃やして出力を高めることを意味します。このsuperchargedが気候変動の文脈で用いられると、気候変動に乗じてそれに伴う現象が勢いを増す様子を表します。例えば、近年温暖化に伴う海水温の上昇で、台風の強度や頻度が増している状況を考えるとイメージしやすいかもしれません。似た意味で使われるintensifyingと比べると、接頭辞super-の働きもあって、より勢いがあり緊迫感が伝わります。
対策強化もsuperchargeで表現
また、違う文脈でsuperchargeが使われている例として、The Straits Timesの記事に次の文章を見つけました。
In reaction to the release of a major report by the UN climate panel, he outlined a plan on Monday to “supercharge” efforts by the Group of 20 (G-20) industrialised nations to reach net-zero emissions as soon as possible.
(IPCCによるレポートの発表を受け、国連事務総長は月曜日、できるだけ早期にネットゼロ排出を達成するよう、G20先進国による取り組みを一層強化するための計画を示した)
※太字は執筆者による。また、英文中heは文脈を踏まえて訳出
ここでは動詞として用いられ、to make something more powerful or impressive(よりパワフルに、優れたものにすること)という意味になります(Cambridge Dictionaryの定義を引用)。引用符で際立たせている点を別にしても、似た表現のaccelerateやboostと比べ、もっと強い力で推し進めていくという印象を伝えています。
このような目新しい表現を見つけるたび、残念ながら気候変動による影響は強まる一方で、そのときどきに適切に危機感を伝えるためには、表現もアップデートし続けなければならないと感じます。言語のプロとして、現状を正しく効果的に伝える表現をご提案できるよう、日々さまざまな情報や人々の意識の変化に目を向けていきます。
※英文の後の括弧内はすべて執筆者による試訳です。
※こちらの記事もあわせてご覧ください。
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Photo by Waqutiar Rahaman via Pixabay