Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
6タイプのグリーンウォッシュ その表現は大丈夫?
欧州を中心に、グリーンウォッシュを取り締まるためのガイドライン(Green Claims Code)が次々に発行され、法規制に向けた動きも進んでいます。
具体的な裏付けなく「環境にやさしい」と主張するなど、少し注意すればすぐに気付けるようなグリーンウォッシュがある一方、一般的な消費者にはわかりにくいものもあります。そして、一般的な消費者にわかりにくいものは、企業の実務担当者でも注意しなければ見落としてしまうこともあるかもしれません。EUをはじめ策定中の法規制においては、「平均的な消費者(average consumers)」に誤解を与えないかどうかが焦点になっているため、ウォッシュ表現を使っていないか、さまざまな観点から精査する必要があります。
6タイプのグリーンウォッシュ
英環境シンクタンクNGOプラネット・トラッカーは今年1月、グリーンウォッシュの分類に関するレポート「The Greenwashing Hydra」を発表しました。同レポートでは、グリーンウォッシュを以下の6つに分類しており、企業が自社の環境訴求をチェックする際にも活用できそうです。
- Greencrowding:大勢の中に紛れることで、発見を逃れること。
例えば、海洋プラスチック削減に取り組む企業が集まって創設されたNGO「Alliance to End Plastic Waste (AEPW)」は、「End Plastic Waste(プラスチックごみに終止符を打つ)」といういかにも「グリーン」な組織名を掲げる一方で、創設メンバーの68%が米化学工業協会に加盟しています。この協会は、米国におけるプラスチック税導入への反対や、プラスチック汚染を取り締まる法案(Break Free from Plastics Pollution Act)への反対など、プラスチックごみ削減に対して消極的なロビー活動を展開しています。
多くの企業が集まるこうしたイニシアティブに対しては、その加盟企業数と魅力的な名称やスローガンに惑わされることがないように、慎重な調査が必要だと同レポートは指摘しています。 - Greenlighting:環境にダメージを与える自社の活動から注意をそらすために、たとえ些細でも事業や製品のグリーンな側面にスポットライトを当てること。
世界最大級のメガバンクHSBCは、「ネットゼロへの移行を支援する投融資」と「植樹による炭素固定」を大々的にアピールしていますが、その一方で、大量のCO2を排出する事業にも資金提供を行っています。これに対し英国広告基準局(ASA)は、HSBCの「グリーンな主張(green claims)」は不適切であると判断しました。 - Greenshifting:企業が消費者に責任を転嫁すること。
石油・天然ガス大手シェルが、大量のCO2を排出する事業を行いながら、消費者に対して世界のCO2排出削減に向けた行動を促すメッセージを発信したことが例として挙げられています。 - Greenlabelling:「グリーン」や「サステナブル」であると訴えるマーケティングをしているが、よく調べるとそれが誤解を招くものである場合。
プラネット・トラッカーは、このタイプのグリーンウォッシュがもっとも多くみられるといいます。「バイオ」「自然由来」「ナチュラル」「地球にやさしい」などは多用される表現ですが、定義が曖昧なため、その主張を具体的に補足する説明がなければなりません。また説明があったとしても、それが小さく記載されていて大抵の消費者が見落としてしまうような場合には、グリーンウォッシュと見なされる可能性があります。 - Greenrinsing:ESG目標を達成する前に変えること。
目標年が来る前に、目標の中身を変えたり、達成期限を変えたりすれば、Greenrinsingにあたるといいます。例えば同レポートによれば、Pepsicoのリサイクル目標は過去5年で3回変更されました。野心的な目標を掲げたものの目標年までに達成できそうにないときや、表向きには聞こえのいいことを言いながら結果が伴っていないときに、こうした手口が使われるといいます。 - Greenhushing:経営陣が投資家の監視から逃れるために、サステナビリティに関する情報を過少に報告したり隠したりすること。
EUサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)で9条ファンドとして登録していた金融商品が、より基準の緩い8条ファンドに格下げされる動きが広まっていますが、こうした動きは厳しい監視を逃れるためのGreenhushingの一例だといいます。また社内で定めた目標を公表しないことも、これに該当します。
実りある環境施策のために
せっかく環境問題に真剣に取り組んでいても、消費者に誤解を与えるようなコミュニケーションによって「ウォッシュ」のレッテルを貼られてしまえば、努力が水の泡になってしまうかもしれません。そして、こうした世間や規制当局の目は、今後も厳しくなる一方です。これからのマーケティングには、真摯な取り組みが適正に評価されるよう、法規制の動きを常にウォッチしつつ、環境や社会と誠実に向き合っていく姿勢が求められているように思います。
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