バリューチェーンの「下流」における人権への影響

国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)の採択により、サプライチェーンにおける人権尊重の取り組みは近年進んでいます。一方、企業が製品やサービスを販売した後、いわゆるバリューチェーンの「下流(downstream)」における人権への影響に関しては、OECD各国連絡窓口(NCP)への申し立てや訴訟に至るケースが増えているとの報告があります。

デンマーク人権研究所(DIHR)が先日発表した報告書は、バリューチェーンの下流で生じるさまざまな権利への影響についても、しっかりと対応していく必要があることをケーススタディを交えて提案しています。

多岐にわたる下流での影響

バリューチェーンの下流で影響が生じる人権としては、どのようなものがあるのでしょうか。

DIHRの報告書には以下が挙げられています。
●フランチャイズ店における結社・団体交渉の自由、製品の配送や廃棄現場の労働環境などに関わるlabour rights(労働の権利)
●サービスの自動化による暮らしへの影響、アルゴリズムの働きによるメンタルヘルスへの影響、製品の最終廃棄に伴う環境への影響といったeconomic, social, and cultural rights(経済、社会、文化的権利)
●エンドユーザーのプライバシーの権利、抑圧的な政権が反体制派を監視するための装置の販売などが関係するcivil and political rights(市民権、政治的権利)

つまり、労働者はもちろん、消費者、エンドユーザー、マーケティングのターゲット層なども含む広い意味でのさまざまなコミュニティが権利者であり、その影響も多岐かつ広範に及ぶと考えられます。

AAAQ評価のケーススタディ

また、健康や教育、食、住宅などに関連する、人々の生活に欠かせない製品やサービスを取り扱う企業の場合、Availability(有用性)、Accessibility(利用可能性)、Acceptability(受容性)、Quality(質)を意味するAAAQが一定基準をクリアしていなければ、バリューチェーンの下流でさまざまな権利に影響が生じる点も報告書は指摘しています。

衛生・健康関連のブランドを中心に事業を行う英国のReckittは、タイで展開するコンドームの販売・マーケティング活動に関して、消費者の「性と生殖に関する権利(sexual and reproductive rights)」という観点でAAAQ基準に基づく人権影響評価を行いました。
評価結果を踏まえて同社は、コンドームを買うことに対する偏見がacceptability(受容性)に関するリスクにつながっていることを確認し、若者を中心とした現地の消費者に向け、性に関する権利や避妊についての啓発活動を実施するといった取り組みにつなげています。それ以外に特定されたリスクに対しても、必要な対応を検討・実施していることが報告書に紹介されています。

バリューチェーンの下流で生じる影響への対応を組み立てるにあたり、Reckittはおそらく、コンドームを開発してタイで販売するに至ったそもそもの目的に立ち返り、それを実現するために何が必要かという視点に立ったのではないかと想像します。ということは、企業にとってパーパスにも直結しうる重要な行動と言えるのかもしれません。

自社の製品・サービスの行く末までを含む下流で生じる影響への対応が今後さらに進むことが期待されます。

Photo by kermit nicou via Unsplash

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