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エネルギー危機とその未来 最新のIEA報告書を読んで
国際エネルギー機関(IEA)は2022年10月、『World Energy Outlook(WEO)(世界エネルギー展望)2022』を発表しました(日本語版エグゼクティブサマリーはこちら)。
ロシアのウクライナ侵攻によってロシアからの天然ガス供給が抑制されたために、世界的なエネルギー不足、そして価格高騰が生じていて、日本でもこの冬、電気料金の高騰が大きな問題になっています。途上国では電気を使えなくなる人が増えており、調理を薪に頼る生活に戻る人が1億人近くにのぼる可能性が指摘されています。
この危機はエネルギーの転換を後押しする
こうした現況を踏まえ、本年度のWEO報告書は、「この危機はエネルギーの転換を後押しするのか、それとも後退させるのか?(Is the crisis a boost, or a setback, for energy transitions?)」という大きな問いを掲げ、それに答える流れとなっています。そうして最終的に導き出された答えは「エネルギーの転換を後押しする」でした。ロシアとEU間の信頼関係が失われたため、両者間の天然ガス取引はもう復活しないと考えられ、クリーンエネルギーへの投資が1.5倍以上になると想定されているのです。
化石燃料はピークアウトする
今回の報告書で注目に値するのは、現行政策を続けた場合でも化石燃料の需要がピークアウトする未来が見えたことです。3つのシナリオが検討された結果、現在の政策を前提とした、一番ゆるい「公表政策シナリオ(STEPS)」の場合でも、2030年代にピークを迎えるという結論になりました。毎年刊行されるWEOにおいて初めて示された、ほっと一息つける結果です。
再生可能エネルギーへの投資を
ただし一つ気になったのが、この報告書で「クリーンエネルギーへの転換」と言うときの「クリーンエネルギー」には、再生可能エネルギーのほかに原子力発電まで含めていることです。原子力を活用することでエネルギー危機に対応しようとしている日本や韓国のやり方も認めているのです。発電中に二酸化炭素を排出しないとはいえ、後に放射性放棄物が残ることを考えれば、果たして「クリーン」という言葉で修飾できるものなのか、原子力発電を増やすことが果たして未来志向の「転換」にあたるのか、違和感があります。
このエネルギー危機の中、世界全体で2030年までに大きく発電量が伸びると予測されているのは、太陽光発電と風力であり、原子力の5~6倍に相当します(STEPSシナリオ)。日本もどこに力を割いていくのか、世界のトレンドをきちんとおさえるべきではないでしょうか。
(五頭美知/翻訳者)
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