Translators in Sustainability
コロナ拡大から3年、「今年の言葉」から見えるもの
英オックスフォード大学出版局が毎年発表している「今年の言葉」。2022年は、初の試みとして一般投票で選ばれました。30万を超える投票数の9割以上という圧倒的な支持を得て1位にとなったのが、Goblin mode(ゴブリン・モード)です。
ゴブリンは人にわるさをする架空の生きもので、「小鬼」などと訳されます。英オックスフォード大学出版局のサイトでは、ゴブリン・モードの意味を以下のように説明しています。
‘a type of behaviour which is unapologetically self-indulgent, lazy, slovenly, or greedy, typically in a way that rejects social norms or expectations’
(試訳)悪びれるところがなく勝手気ままで、ぐうたらで、だらしのない、欲張りな行動。社会的な規範や期待を拒むような形で行われることが多い。
コロナ疲れの反動?
昨年、この言葉がよく使われた(=ゴブリン・モードの人が増えた)のはなぜなのでしょうか。理由の一つとして、英ガーディアン紙は、長期化するコロナ禍との関連を指摘しています。パンデミックの初期には、外出禁止などもあり、家でできる健康的で楽しいことをしよう、そうやって乗り切ろう、という空気がありました。ところが、コロナ禍は2年、3年と続いています。自分を律することに疲れた人たちの振り子が、対極の自堕落な行動へと大きく振れたのでしょう。家にいれば人の目も気になりません。だから、たとえば一日中テレビをつけっぱなしにして、だらだらとSNSをチェックしながら、お菓子の袋から残ったかけらを口に流し込む……そんな「ゴブリン・モード」の行動もしたくなる、というわけです。
コロナ規制の緩和が少しずつ進む中、たとえ「コロナ前の日常」が戻っても、従来の社会規範に合わせるのはもう嫌だと感じている人もいます。「ゴブリン・モード」は、そういう人の思いも表していると、英オックスフォード大学出版局は分析しています。
リモートゆえの、つながる不安
一方で、オーストラリアの子どもたちの「2022年の言葉」はPrivacy(プライバシー)でした。実はこれも、パンデミックの影響を映し出しています。
コロナ禍で、子どもたちを取り巻く社会も大きく変化しました。対面の機会が減ったことで、逆にオンラインの活動が増え、プライバシーが侵害されるリスクも増えています。そうした状況に戸惑う姿が、子どもたちの書く文章から垣間見えます。分析によれば、プライバシーという言葉が使われる頻度は前年の3倍になり、internet(インターネット)、data protection(データ保護)、online behaviour(ネット上の行動)などの言葉と一緒に使われる傾向がありました。
世界各国がコロナ後に向けて舵を切り、「日常」を取り戻そうとする動きが進んでいます。新たな日常は、どんな形になるのでしょう。それはどんな空気を醸し出し、どんな言葉で表されることになるのでしょうか。そんなことも考えながら、今年も「言葉」に注目していきたいと思います。
Image by Alana Jordan from Pixabay