Translators in Sustainability 伝わるコミュニケーションへの道
「先進国」と「途上国」
「先進国(developed country)」と「途上国(developing country)。以前は何とも思わずに使っていた言葉ですが、数年前から違和感を持つようになりました。
「先進国」は本当に進んでいるのか?
以前から言われていることですが、違和感の一つは、「進んでいる国」と、いまだその「途上にある国」という位置づけが、先進国の上から目線に見えるという点です。もう一つは、物質的に豊かであるという経済的な面だけを切り取って、「進んでいる国」だとしている点です。自分自身も含め、私たちは無意識に経済的な面からばかり世界を見るようになっています。以前、途上国と呼ばれている国のある地方に行った時、その町ではどこに行っても野菜は有機のものしか手に入らず、バナナといえば地元で取れた無農薬完熟バナナ。鶏はもちろん平飼い。サステナビリティの観点から見れば、最先端だなと思ったことがあります。
代替表現は?
ウィキペディアを見ると、英語では、先進国(developed country)の同義語として、industrialized country、high-income country、more economically developed country (MEDC)、advanced countryが挙げられています。数年前すでに、ネイティブの翻訳者さんは「先進国」をhigh-income countryと訳していました。これらの表現も、経済的な側面から世界を見ているという面は逃れませんが、developed countryとほぼ同じニュアンスのadvanced countryを除けば、工業や経済が進んでいると具体的に表現しているという点で、developed countryより公平な表現と言えそうです。
一方、途上国(developing country)はless industrialized country、low and middle-income country (LMIC)、low-income country、economically developing countryとなります。
日本語で「先進国」は、「工業国」、「先進工業国」、「高所得国」、「経済先進国」などと言い換えることができます。「途上国」は「後進工業国」、「低所得国」、「経済後進国」となります。ただ、「先進国」、「途上国」という表現があまりに定着していることもあり、こうした代替表現が今後広く使われるようになるかはわかりません。
学び合える関係に
私個人の印象ですが、「先進国」、「途上国」という認識を持つことで、「先進国」の人は「途上国」から学ぶ機会を逃し、「途上国」の人は不合理な劣等感を持つ原因となっているように感じます。今後こうした表現が変化していくかはわかりませんが、少なくとも、言葉に惑わされることなく、お互いにもっと学び合える関係を築いていけることを願っています。