英語表現から考える「主体性」とは?

2023 / 2 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

先日担当した翻訳案件で「主体性」の英語表現について考える機会がありました。
日本語でも、「自主性」、「自律」、「自立」、「当事者意識」など似て非なる表現が数多くあります。今回は主に「自主性」との違いに注目しながら、「主体性」とは何かを考えてみます。

「自主性」VS「主体性」

まずはこの2つの意味を国語辞典で確認してみると、以下のようにありました。

じしゅ【自主】
他からの干渉や保護を受けず独立して事を行うこと。

しゅたい【主体】
自覚や意志に基づいて行動したり作用を他に及ぼしたりするもの。

デジタル大辞泉より引用

一見したところ大きな違いはなさそうですが、太字部分に注目すると、前者は周りとの関係における自分を起点としている一方、後者はシンプルに自分自身を軸としている点に微妙な違いがありそうです。
また、英語で「自主性」「自主的な」を表す表現としてはautonomyやvoluntaryなどがパッと浮かびますが、それらの定義からも他者との関係における自分を意識した表現であることが分かります。

Autonomy is the ability to make your own decisions about what to do rather than being influenced by someone else or told what to do.(Collinsより引用
(試訳:Autonomyは、他者に影響を受けたり、何かをするよう言われたりするのではなく、自分の判断でするべきことを決められること)

Voluntary actions or activities are done because someone chooses to do them and not because they have been forced to do them.(Collinsより引用
(試訳:Voluntary actions/activitiesは、強制的にさせられるのではなく、自ら選択してとる行動のこと)

責任がともなう「主体性」

上記の定義に基づくと、「自主性」は日本語でも英語でも「他者に影響されることなく、自ら率先して」という意味合いが強く、“自分発”である点に重きが置かれている印象です。
それに対して「主体性」という日本語表現からは、自分を軸にして行動を起こすだけでなく、最後までやり遂げるところまでを含むニュアンスが感じられます。

冒頭で触れた翻訳案件では、その点を踏まえてsense of agencyという訳をご提案しました。
もともと心理学の専門用語ですが、最近もっと幅広い文脈で使われるようになっている表現です。リサーチで見つけた分かりやすい定義をいくつかご紹介します。

Sense of agency refers to the feeling of control over actions and their consequences.
(試訳:sense of agencyとは、行動とその結果を管理できている感覚のこと)

sense of agency (SoA) refers to the experience of initiating and controlling an action.
(試訳:…sense of agencyとは、行動を起こし、それを統制している状態のこと)

定義に含まれるconsequencecontrolというキーワードには、始めるだけでなく、過程から結果がでるまでを自分の意志で責任を持って進めていくという意味合いが含まれます。

このような似た表現に見られるニュアンスの違いは、取るに足らない小さなものかもしれません。しかし、場合によっては重みが違って伝わることもあります。翻訳に限らず、企業のコミュニケーションをご支援する際には、表現の違いに細心の注意を払って適切なご提案をしてまいります。

Photo by Mathieu Stem via Unsplash

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