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ネイチャー・ポジティブ 定義がない今、どう対応?
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の枠組み策定をはじめ、生物多様性・自然資本に関連する動きが加速し、ネイチャー・ポジティブ(Nature positive)という概念が注目されています。しかしその定義には、ばらつきがあります。
ネイチャー・ポジティブとは? 組織によって異なる定義
Biodiversity Consultancyの論文によると、定義は大きく3つに分類されます(P4をご参照ください)。
①Conceptual(概念型)
Science Based Targets Network(SBTN)や国連環境計画(UNEP)の定義がこれに該当します。例えばUNEPは、次のように定義しています。
A Nature-positive Economy [is] an economy that is regenerative, collaborative and where growth is only valued where it contributes to social progress and environmental protection
(試訳:ネイチャー・ポジティブな経済とは、環境が再生され、協働が促される経済であり、社会の進歩と環境保護に資する場合に限り成長が評価される)
②Target-based(目標型)
「目指す状態」を表すTNFDは、目標型に該当します。
…a high-level goal and concept describing a future state of nature (including biodiversity, ecosystem services and natural capital) which is greater than the current state.
(試訳:現状よりも改善された将来の自然の状態(生物多様性、生態系サービス、自然資本など)を表す大枠の目標や概念)
③Process-based(プロセス型)
持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)は、ネイチャー・ポジティブという用語そのものの定義はしていませんが、ネイチャー・ポジティブを実現するためのプロセスを6つのアクションで説明しています。
本質的な動きを進めるために
同論文によると、定義が定まっていないことで混乱や誤解が生じ、生物多様性目標の達成に向けた本質的な取り組みが進まない可能性があるといいます。論文では、ネイチャー・ポジティブ実現に向けた企業戦略に求められる4つの軸を提案しています。
①Scope
組織が直接的にもたらすインパクトに限らず、バリューチェーンや業界全体でポジティブな成果を生み出すこと
②Mainstreaming
生物多様性への配慮を事業活動の中心に据えること
③Integration
気候、水、土壌、地域社会などの要素を総合的に考慮することで、シナジーを生み出すと同時に、トレードオフを最小限に抑えること
④Ambition
単にネガティブなインパクトを相殺するのではなく、世界的な生物多様性目標に沿って積極的にポジティブな成果を生み出すこと
企業の取り組みの現状と、これから
上記4つの観点に照らしてみたとき、企業のネイチャー・ポジティブの取り組みは現状どの程度のレベルのものでしょうか。Biodiversity Consultancyが167社を分析した結果、全体として生物多様性の取り組みは前進はしているものの、明確な目標設定に課題があることが明らかになりました。特に、取り組みの範囲(Scope)については大多数が明示していません。また明示していたとしても、ほとんどは事業の直接的な影響範囲にとどまり、サプライチェーンやバリューチェーン全体を対象範囲として認識している企業はごくわずかです。また野心的な目標設定(Ambition)についても、グローバルや国レベルの目標に沿った取り組み成果の達成を掲げている企業は167社の中にはないようでした。
ネイチャー・ポジティブに限らず、あらゆる目標は「SMART」※であることが重要です。自然破壊は急速に進んでおり、のんびり構えている余裕はありません。これから進むであろう定義の議論に目を配りつつも、自ら周囲をリードするつもりで野心的かつSMARTな目標を設定して取り組んでいくことが求められているように思います。
※目標設定のフレームワーク。中身は組織や文献によって異なる場合もありますが、同論文では、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Accepted(納得感がある)、Realistic(現実的)、Time-bound(期限がある)の頭文字をとってSMARTとしています。
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