エネルギー憲章条約の近代化、その問題点は

2022 / 11 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

エネルギー原料・産品の通商の自由化とエネルギー分野における投資の保護について定める国際的な枠組みであるエネルギー憲章条約(Energy Charter Treaty, ECT)。今年6月、昨今のエネルギー情勢や気候変動対応等を踏まえて、条約の内容を近代化(modernize)するための交渉において実質合意がなされました。
しかし、EU諸国をはじめECTからの脱退を決める動きが目立ちます。なぜなのでしょうか?

なかなか進まない化石燃料排除

エネルギー供給の確保を目的に、これまではECTのもと、化石燃料事業も投資保護の対象とされてきました。しかし、早急な気候対策が必要とされる現状を踏まえ、6月の改訂案には保護の撤廃に向けた計画が盛り込まれています。
問題視されているのはその内容で、化石燃料排除を決めているEUと英国でも、実際に保護が撤廃されるのは早くても2033年以降となる点、またそれ以外の国では無期限に投資保護を継続できる余地が残る点などが懸念されています。

こちらの記事にある気候活動家の声がこの問題を端的に表現しています:

The agreement is a disaster as it will lock the EU in fossil fuel investment protection for at least another decade and …
(試訳)今回の合意が大失敗なのは、これにより、EUは少なくともさらに10年間は化石燃料への投資が保護される状況から抜け出せなくなるためであり・・・

特に注目したいのが、「身動きが取れない」、「為す術がない」というニュアンスを持つlock
同条約には、エネルギー政策の変更により投資家が不当に利益を損なった場合、政府に補償を請求できる条項が盛り込まれています。この条項が撤廃されない限り、国としては如何ともしがたい現実が伝わる表現です。

不確かなテクノロジーへの期待

また今回の改訂では、バイオマスや水素、CO2回収・有効利用・貯留(CCUS)などが新たに投資保護の対象に加わりました。
この点に関しては、特にCCUSについて、持続可能な開発に関する国際研究所(IISD)の報告書が次のとおり指摘しています:

Protecting capture, utilization, and storage of carbon dioxide under the ECT will not likely drive increased investment in this technology, which is untested and unproven at scale.
(試訳)CCUSは十分な規模で立証されておらず、ECTによる保護が同技術への投資の後押しにつながる可能性は低い。

バイオマスや水素も持続可能性の観点から問題があるとされており、現時点で実用化に至る保証はなく、そうなったとしてもまだ時間がかかるのは間違いなさそうです。

ECTの近代化に向けた今回の改訂を巡るこれらの課題を見ると、気候対策が待ったなしの状況にあることへの認識が不足していると感じます。妥協策ではなく、より抜本的でスピード感のある枠組みが期待されます。

※こちらの記事もあわせてご覧ください。
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Photo by Eelco Böhtlingk via Unsplash

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