COP27 世界共通の目標達成に向けた議論の継続を期待

2022 / 11 / 30 | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

11月に開催されたCOP27のキーワードは、「損失と損害(loss and damage)」。
気候変動の緩和策として温室効果ガスの排出削減を進めつつ、適応策として影響を軽減し備えることを検討してきたこれまでと違い、現に被害がもたらされていることに対してどのように対応するかが主なテーマとなりました。

実際、国土の3分の1が水没するほど深刻なパキスタンの洪水被害のほか、世界各地で干ばつや豪雨災害などが発生しており、もはや「将来のこと」として議論する余裕はなく、目の前の厳しい現実への対応を迫られていると言えます。

迫られる現実への対応とその代償

また最終的な合意文書では、化石燃料の段階的廃止を求める直接的な表現に代え、“…transition towards low-emission energy system…”(試訳:低排出エネルギーシステムへの移行)を求めるという文言が使われました。
エネルギー危機に直面する欧州を中心に、ロシア産天然ガスに代わる天然ガスの供給源を確保しようとする動きが目立ち、石炭等に比べて排出が少ない天然ガスを許容するために表現を調整したのではないかとの見方もあるようです。

化石燃料への逆戻りとも取れる残念な動きですが、Nature誌の記事にある一文は、そうせざるを得ない欧州各国の難しい立場を伝えています:

European leaders insist that these measures are short-term fixes that won’t detract from their long-term commitments…
(試訳:欧州の各国首脳は、これらは短期的な応急処置であり、長期的なコミットメントを損ねるものではないと主張する)

厳しい冬を乗り越えるために一時的に化石燃料に頼らざるを得ないのは、目の前の問題への対処として仕方のないことなのかもしれません。ですが、それによって気候変動対策が滞り、今より重大な損失や損害が生じることも同時に想定する必要があります。天然ガスを含む化石燃料への回帰がこれ以上進まないことを願います。

未来を諦めないために

途上国と先進国との溝が埋まらず議論が難航したと伝えられているCOP27。しかし気候変動の影響は、そんな区別は関係なく世界全体に及びつつあります。

今回のCOPでの議論を追ってみて、そうした厳しい現実にそれぞれの立場で対応することに精一杯で、誰も置き去りにすることのない真に公正な移行という世界共通の目標の達成に向けて動く余裕がなくなってきているのかもしれない、という危機感を覚えました。現実に向き合いながらも、持続可能な未来のために実のある議論が続くことを期待します。

※こちらの記事もあわせてご覧ください。
大切にしたい「気候正義」 企業・個人ができることは?
気候の言葉の今 危機感と変化
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Photo by Kelly Shikkema via Unsplash

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