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カーボンインセット バリューチェーンを通じた排出削減
世界的に活発化するカーボンオフセット(Carbon offsetting)。しかし、本質的な排出削減につながっていないのではないか、排出の「免罪符」になっているのではないか、といった指摘もあります。
こうした中、「カーボンインセット(Carbon insetting)」という概念が注目を集めています。
カーボンインセットとは?
International Platform for Insetting(IPI)によると、カーボンインセットの主な特徴は以下の3点です。
・バリューチェーンへの働きかけを通じて、GHG排出削減やCO2回収・貯留を推進する
・特にリジェネラティブ農業やアグロフォレストリーなど、自然を基盤とした解決策(Nature-based solutions)を通じて上記に取り組む
・排出削減と同時に、地域社会や自然環境、生態系にもポジティブな影響をもたらす
英単語のinsetとは、「内部に取り込むこと」を意味します。自社とは無関係の「外」からクレジットを購入して自社の排出を相殺するオフセットとは異なり、カーボンインセットとは、自社のバリューチェーン(上流・下流の両方)の「中」で排出削減に取り組むことをいいます。インセットにより削減された排出量がクレジットとして他社に販売されることはありません。
企業の取り組み事例
すでにインセットの取り組みを実践している企業もあります。
例えばフランスの化粧品会社L’Oréalは2016年から、西アフリカのブルキナファソでシアの木の実の収穫を行う女性のエンパワーメントに取り組むNafa Naanaを支援しています。シアの実から得られるシアバターは、肌を保湿・保護する効果があり、L’Oréalの化粧品にも使われています。
シアバターの加工工程では、バターの抽出のために伝統的な薪ストーブが使われていましたが、薪を集める労力や森林伐採、燃焼によるCO2排出、煙による健康問題などの課題がありました。
L’Oréalは、収穫に携わる女性たちに新しいストーブを提供することで、これらの問題を同時に改善しています。
ネスレグループのブランドの一つであるネスプレッソは2014年から、コーヒー農園やその周辺への植林を支援しています。これにより、生物多様性の保全や土壌の改善、炭素隔離が促されるほか、涵養林が育つことでコーヒー農園の土壌侵食の防止や水資源の確保にもつながっています。さらに果樹を植えることで、コーヒー農家の新たな収入源も創出しています。
カーボンインセットのこれから
IPIは、インセットに取り組む組織向けのガイドラインを公開しています。バリューチェーン全体を視野に入れ、環境・社会課題に取り組むことの重要性が高まる中、カーボンインセットの動きは今後さらに広まっていくかもしれません。
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