W杯を価値あるレガシーに

2022 / 8 / 2 | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

今年の11月にカタールで開幕するFIFAワールドカップ。
本大会をめぐっては、特に移民労働者に対する人権侵害が問題視されてきました 。W杯開催を価値あるレガシーとするため、中東初の開催国となるカタールやFIFAには今後も誠実な対応が期待されます。

労働環境改善に向けた進展

W杯開催に向けてインフラ整備が進むカタールでは、「カファラ制度 」という中東特有の労働契約制度の下、移民労働者に対する人権侵害が問題となりました。何年にもわたって人権団体などが声をあげ、世界の厳しい目が向けられる中、結果的に国際労働機関(ILO)がこの制度に異議申し立てを行い、労働者を守る法の整備に至りました 。

ILOのムッサ・ウマル事務局次長は、これが価値あるレガシーとして受け継がれていくことを期待して次のように述べています。

We want progress in labour reforms to be a positive image for Qatar beyond the World Cup.
(W杯後のカタールにとって、労働改革における進展がプラスに働くことを期待しています)

真の改革に向けて

一方で、アムネスティ・インターナショナルは、これまでに人権侵害を受けた労働者に対する救済プログラムの実施をFIFAとカタールに要求しています 。
救済プログラムに求める条件として、労働者、組合、市民社会など幅広いステークホルダーの声を聞くこと(participatory)や、再発防止を約束すること(non-repetition)を挙げ、内容を伴ったプログラムとすることを提案しています。

これまでの人権侵害に誠実に向き合うことが真の改革に向けた第一歩という、同団体のアグネス・カラマード事務局長の言葉が印象的です。

Providing compensation to workers who gave so much to make the tournament happen, and taking steps to make sure such abuses never happen again, could represent a major turning point in FIFA’s commitment to respect human rights.
(大会実現に向けてあまりに多くを捧げてきた労働者に補償をし、このような侵害が二度と起きないよう措置を講じることは、FIFAの人権尊重に向けた取り組みにおける大きな転換点になりうるでしょう)

世界的なイベントに合わせて注目が集まることで、主催国が抱える問題の改善に向けた足がかりができたり、FIFAのような統括団体の役割が改めて問われたりしますが、結果をより良い未来につなげられてはじめて、価値あるレガシーとなります。
まずはこれまでの問題に誠実に向き合い、その経験を基に今後何が必要かをさまざまな声を聞きながら検討する。その道のりは、大会が終わっても続きます。

※英文に続く括弧書きはすべて執筆者試訳です。

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Photo by Rhett Lewis via Unsplash

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