As a citizen 一人の市民として

アメリカの大学は5~6月ごろが卒業シーズン。今年も各大学の卒業式には、バイデン大統領やハリス副大統領、ニュージーランドのアーダーン首相、ファウチ国立アレルギー感染症研究所長、俳優でミュージシャンのテイラー・スウィフト、陸上選手のアリソン・フェリックスなど、多様な面々が招かれて祝辞を述べました。

心に響くエール

スピーチは大学のウェブサイトなどで公開されています。自らの学生時代を振り返り、コロナ禍の中で学生生活の大半を過ごしてきた卒業生たちの苦労をねぎらい、社会への船出に際してエールを送るスピーチは、どれも言葉に力があり、経験に裏打ちされた説得力が感じられます。

コロンビア大学では、法学の名誉博士号(honorary Doctor of Laws degree)を授与されて卒業式に参列していたヒラリー・クリントン元米国務長官が、スピーチを求める卒業生たちの声に応えて壇上に立ち、即席で祝辞を述べました。

…let me ask you – really, beseech you – to take this extraordinary, world-class education and not only put it to work in the service of your own dreams, as important as those are, but also as a citizen. A citizen who believes that everyone is entitled to the same kind of education, that there is work to be done to ensure justice, equality, freedom, and, yes, to preserve and protect democracy.

(試訳)……みなさんにお願いします――本当に、強くお願いします。このすばらしい、世界最高レベルの教育を、自分自身の夢を叶えるために役立てるのはもちろん大切なことですが、それだけではなく、市民として活用してください。人はみなこうした教育を受ける権利があると信じ、公正、平等、自由を実現するために、そしてそう、民主主義を維持し守るために、しなければならないことがあると信じる一人の市民として。

責任ある市民社会の一員として

この短いながら力強いメッセージの中で、印象に残ったのはas a citizen(市民として)という言葉です。「責任ある市民社会の一員として」生きてほしいというニュアンスが込められているように感じました。

私が子どものころに数年通った小学校の校舎に、Enter to learn, leave to serveという言葉が刻まれていたのを思い出します。「学ぶために来たれ。社会に貢献すべく巣立て」というこの校訓も、クリントン氏のスピーチに通じるところがあります。

教育の機会はもとより、さまざまな不平等が存在する世界にあって、教育を受ける幸運に恵まれた者には、その教育を自分のためだけではなく、社会のために生かす責任がある――これから巣立っていく若者たちはもちろん、社会に出て久しい者の心にも響くこのメッセージを、しっかりと受け止めたいと思います。

Photo by Vasily Koloda on Unsplash

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