「駐在員」はexpatriate/expat?

2022 / 7 / 27 | カテゴリー: | 執筆者:Yasuko Sato

「駐在員」は以前から訳しにくいなと感じている単語の一つです。一般的には、expatriateやexpatという語がよく使われるようですが(expatはexpatriateの短縮形で同じ意味)、私はエコネットワークスでネイティブがexpatriateという訳語を使うのを見たことがありません。

海外に移住した人はみんなexpatriate

expatriateで辞書を引くと次のようにあります:
・a person who lives in a foreign country(外国に住んでいる人)
[メリアム・ウェブスター英英辞典]
・追放された人、国外在住[海外駐在]の人、国籍を捨てた人}
[ジーニアス英和大辞典]

日本語の「駐在員」は企業や組織が国外に派遣した人を指しますが、英語では、自分で海外に仕事を見つけて移住した人もexpatriateです。また、広い意味では、仕事とは関係なく、海外に住んでいる人はみなexpatriateに該当します。

また、似た意味の単語にimmigrant(移民)があります。辞書の上でその違いは、expatriateが一時的に国外に滞在する人を指すのに対し、immigrantは永続的な滞在を意図して国外に移住する人を指す、という点です。

expatriateは特権階級? 白人限定?

ところが、実際にはexpatriateとimmigrantの違いは意図する滞在の長さだけではありません。expatriateという言葉は社会階級が高い、高等教育を受けている、海外で働くプロフェッショナル人材というようなイメージを内包しています。

ネイティブがこの語を避ける重要な理由はもう一つあります。Guardian紙によれば、expatriateは欧米の白人のみに使われる傾向があり、アフリカ系、アラブ系、アジア系といった白人でない人々にはimmigrantが使われます。アフリカのトップレベルの専門家が欧州で仕事を見つけた場合であっても、その人はhighly qualified immigrant(高い技術を持つ移民)とされ、expatriateとは呼ばれません。

無意識のうちに差別しないために

元々、expatriateという単語に差別的な意味はありません。こうした言葉の使用を避けても、問題の解決にはならないかもしれませんが、知らないうちに階級や人種の差別につながるのは避けたいところです。今のところは「駐在員」をexpatriateではなく、例えば「employees posted overseas(海外に派遣された社員)」のように、説明調に訳出するのがよさそうです。

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Photo by Anete Lūsiņa on Unsplash

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