Translators in Sustainability
Seaganism 新しい言葉から学ぶ
英ケンブリッジ大学出版局の辞書サイトCambridge Dictionaryのブログでは、近年、目に触れるようになった新しい言葉(new words)を紹介しています。これらは、辞書に掲載される言葉の候補。いっとき使われた後に消えていくものもあれば、やがて定着して辞書に掲載されるものもあります。
日々、言葉と向き合う翻訳者にとって、new wordsは情報の宝庫です。言葉の構造を知ることができておもしろいだけでなく、言葉が誕生する社会的な背景も学べます。
例えば、今月、上記ブログでseaganismという言葉が紹介されていました。
言葉の構造 seaganism = sea + veganism
seaganismという言葉が初めて使われたのは2016年。sea(海)とveganism(ヴィーガニズム、完全菜食主義)を合わせた言葉で、植物性食品と魚介類を食べるライフスタイルを指します。魚介類を加えると食事のバリエーションが広がり、ヴィーガンでは不足しがちなオメガ3脂肪酸も摂取できる利点があります。
社会的な背景 seaganism = sustainable seafood + vegan diet
興味深いのは、seaganの人(seaganismの実践者)は魚介類なら何でも食べるわけではなく、ヴィーガンの食生活にサステナブルなシーフードを組み合わせるということ(…people follow a vegan diet but include sustainably sourced seafood)。菜食主義を選ぶのには、健康上、宗教上の理由や、動物愛護などの理由がありますが、近年は、肉や魚を食べることの環境への影響を考えて食生活を変える人も増えています。ヴィーガンの食生活にサステナブル・シーフードを組み合わせるseaganismは、そうした社会的背景も表しているように思います。
上記ブログのseaganismの記事には、さらにpescatarian、flexitarianという言葉も登場します。ペスカタリアンは、肉は食べないけれど玉子、乳製品、魚は食べる人。フレキシタリアンは、植物性食品を中心にしつつ、時には肉や魚も食べる人で、日本では「ゆるベジタリアン」とも呼ばれます。さまざまな食のあり方を表す言葉に触れると、自分の食生活を見つめ直すきっかけにもなります。
そしてこんな問いも頭に浮かびます。「seaganismは日本でも定着するだろうか? 定着したら、どんな訳語で表すようになるのだろう。カタカナでシーガニズム? それとも……」。一つの言葉が、いろいろな方向から多くのことを考えさせてくれます。言葉というものの奥深さを実感するひとときです。こうした学びを楽しめるのも、翻訳という仕事の醍醐味と言えるかもしれません。
Photo by Justin Luebke on Unsplash
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