暗喩を使ってメッセージを印象深く ― Lens

先日、スイスの損害保険会社 Swiss Reのウェブサイトで目を引いた見出しがあります。コーポレート・ソリューソンズ アジア太平洋地域最高経営責任者のブログ「Through the sustainability lens」です。

これは、暗喩(metapher)という、比喩の代表的な技法でのひとつです。「Aさんは神様のような人だ」が直喩であるのに対して、暗喩では比喩であることを外形的に示す言葉 (ように、ような) を用いず、「Aさんは神様だ」と表現します。イメージの喚起力において勝るため、慣用表現などに多く見られます。

Lensをどう訳す?

lens を類語辞典で調べると、以下の内容があり、訳すヒントになります。

lens – (metaphor) a channel through which something can be seen or understood; “the writer is the lens through which history can be seen”
↔communication channel, channel, line – (often plural) a means of communication or access; “it must go through official channels”; “lines of communication were set up between the two firms”
(試訳)レンズーー(暗喩)何かを見たり理解したりするためのチャネル。(例)「その作家は、歴史を見るレンズである。」
↔通信路、チャネル、ライン – (しばしば複数)通信またはアクセスの手段。(例)「公式なルートを通さなければならない。」「両社の間には、コミュニケーション・ラインが設けられた。」

前述のブログ、実は日本語版があり「サステナビリティ(持続可能性)の視点を通して」、つまり lens = 「視点」と訳されていました。わかりやすいですね。視点を直訳すると「perspective」。直訳でもいいのですが、「~の視点で」という日本語原稿であれば「through a (the) ~ lens」と訳すのもよさそうです。

表現の引き出しを豊かに

このように「お!」と思う英文表現に出会うと、「日本語でなんと訳そうかな?」と色々調べるのは楽しいですし、両方の言語での表現の引き出しを豊かにすることができます。翻訳者は、読者に「いいね!」と思っていただけるためにどれだけ多くの表現を知っているかが強みとなります。

私たちの翻訳チームでは年に一度「優良レポートを読む会」を開催しています。国内外の企業が公表している英文報告書で第三者に高く評価されているものを発表者が1本ずつ読み、内容をまとめて、勉強会当日に発表するという勉強会です。翻訳以外のお仕事パートナーさんにも参加いただいています。毎回たくさんの学びがあり、「この表現を使ってみたいね!」とにぎやかです。いつか公開して、もっとたくさんの方と共有するのもおもしろそうです。

こちらの記事もあわせてご覧ください:
その表現大丈夫? コミュニケーションの注意点【環境編】
実績:メーカー「グローバル発信勉強会」企画・実施

Photo by Bud Helisson on Unsplash

このエントリーをはてなブックマークに追加