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IPCC報告書が伝える、あらゆる可能性を排除せず未来に備える大切さ
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今年8月第6次報告書(WG1自然科学的根拠)を公表しました。人間活動の温暖化への影響は「疑う余地がない」と断定されるなど、日本国内でも大きく報道されました。
エコネットワークスでは先日、その「政策決定者向け要約」(Summary for Policymakers)を読み込む社内勉強会を実施しました。
前回の報告書AR5より関連知識が向上したことで工業化以前からの気温上昇を表す最良推定値が3℃と導き出されていたり、COVID-19の流行に伴って一時的に経済活動が鈍化したことによるGHG排出削減の影響は限定的であると述べられていたり、注目すべきさまざまなポイントについて学び合いました。
「可能性が低くとも影響が大きい結果」とは
なかでも、「可能性が低くとも影響が大きい結果(low-likelihood, high-impact outcomes)」として、南極氷床の融解の大幅な増加や森林の立枯れなどを例に挙げ、影響が大きい分、その可能性も排除はできずリスク評価に含めている点は、適応策を考える上で重要なポイントだと思いました。
たとえば、南極の氷床が大幅に融け出した場合、海面水位の上昇に直接的に大きな影響を及ぼします。この点について、報告書は次のように伝えています:
Sea level rise greater than 15m cannot be ruled out with high emissions
(気象庁暫定訳)高排出の場合には15mを超える海面水位上昇の可能性も排除できない。
15メートルの海面上昇をシミュレーションで見てみると、関東地方の広い範囲が浸水し、私が住む愛知県の海岸線も一変するほどで、現時点では非現実的な印象を受けるかもしれません。それでも、この先絶対にないとはいえない、可能性はゼロではないというのが科学の出した答えと言えそうです。
考えることを止めず、未来に備える大切さ
「可能性を排除する」という意味のrule outの定義は、to stop considering something as a possibility(試訳:可能性の一つとして考えることを止める)。報告書では、上記例文のようにcannot be ruled out(可能性は排除できない)の形で使われています。
科学的根拠に基づいた「可能性は低くてもゼロではない甚大な影響」にどう備えるか。
起こらないものとして考えないでおくのではなく、今からしっかり考えて対策しておくことが大事だと報告書は伝えているのではないでしょうか。
Photo by Anders Jildén via Unsplash
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