Translators in Sustainability
路上生活者 言葉が写し出す社会の変化
カタカナの日本語は外来語のことが多く、英語ですぐ頭に浮かぶ方も多いでしょう。でも翻訳では「それでよいのか?」と自問することが多いです。例えば、「ホームレス」。日本の法律では、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる人を「ホームレス」と定義しています。報道では「路上生活者(ホームレス)」と記載されている例もありますが、カタカナの「ホームレス」は一般的な言葉として認知されている状況です。
The homelessはもう使われなくなっている
一方、英語では、何十年も一般的だった the homeless と呼ばずに別の表現にしているのを見かけるようになりました。例えば、unhoused people がその一例です。メリアム・ウェブスター辞典での unhoused の定義は、「住まいや(一時的に身を寄せる)シェルター(グループホームや救護施設)がない」状況を表します。調べたところ、特に支援団体でこの言葉を採用していることが分かりました。
その他、米国疾病予防管理センター(CDC)のウェブサイトでは、people experiencing unsheltered homelessness(シェルターにも入れず、住まいのない状況にある人)としています。
報道関係では2020年5月、英訳でもよく参考にするAP通信社のスタイルブックで、非人間的な集合名詞の the homeless の使用を避け、homeless people や people without housing 、people without homes(住まいのない人)といった説明とするように改訂がありました。
個人の尊厳を大切にする表現を選ぶ
この変化の背景にあるのは何なのか。コロナ禍の影響でその課題を抱えざるを得ない状況に陥ってしまう人々がさらに多くなっているのも一因です。それとは別に大きな社会の流れとして、自己責任だと突き放すのではなく、人と課題を分けて考えよう、人としての尊厳を大切にしようとする意識の高まりが、言葉づかいの変化としても表れているように思うのです。
英訳をするうえでも、チームでこのような変化を共有したり、クライアントにお伝えして、それを反映した言葉をご提案していきたいと考えます。同時に、言葉を選んでいくことでよりよい社会への変化を促し、すべての人の健康が守られ、危害を受けることのない安全な居場所が確保されることを切に願います。
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