「経済成長なき成長」EEA報告

2021 / 7 / 27 | 執筆者:EcoNetworks Editor

2021年1月、欧州環境庁(EEA)は『Growth without economic growth(経済成長なき成長)』を発表しました。既成概念では理解しがたいタイトルのこの報告書、今の社会に必要な示唆に富んでいると思い、これをテーマに書きたいと思っていました。試訳で内容をご紹介します。

報告書の冒頭では、次のように問題提起がなされています。

「経済成長と環境への圧力や影響を切り離す、長期的な地球規模での絶対的なデカップリングは実現できそうにありません。そのため、社会は成長(growth)や進歩(progress)とは何を意味するのか、地球全体の持続可能性にとっての成長や進歩の意味を再考する必要があります。」

そして、こうも指摘します。「今、社会が成長の限界を経験しているのは、成長を経済活動や物質消費の側面から定義することにとらわれているからです。」

レポートによると、2018年時点で世界全体のデカップリングは起きていません。サーキュラーエコノミーも、その循環が物質消費を拡大させる成長戦略を後押しするものであれば、持続可能な社会には繋がらないだろうといいます。そして、経済成長に代わる「成長」のヒントとして、欧州の価値観を挙げています。

「欧州の伝統は物質消費よりはるかに豊かなものです。EUの基礎となる価値観は、人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の統治です。」

レポートでは、経済成長という現在の軌道(Plan A)の限界を指摘し、持続可能性を実現する「Plan B」について言及しています。Plan Bは消費を減らしつつも、すべての人にとって魅力的なライフスタイル、コミュニティ、社会の新機軸を打ち出すことです。例えば、欧州では、性差別や労働時間の不均衡、不安定労働の増加への対策として、ベーシックインカムの議論や、労働時間の短縮を求める声が大きくなっています。さらに、「ドーナツ経済」「ポスト成長」「脱成長」といった概念が、主流の概念に代わる洞察を示していると指摘します。

また、経済成長は、文化、政治、制度の中に深く埋め込まれているため、Plan Bの構築は容易ではないとしつつ、その実現には民主的な対応が必要だとしています。

What are we willing to renounce in order to meet our sustainability ambitions?
持続可能性という大目標を実現するために私たちは何を手放す用意があるでしょうか?

「人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の統治」という価値観は、EUというより地球上の社会全体で今もっとも必要なものであり、「Plan B」に通ずる考え方が日本でも提案されています。山口周氏の『ビジネスの未来』の中での「高原社会」、斎藤幸平氏が『人新世の「資本論」』で提唱する「脱成長コミュニズム」がそれでしょう。

持続可能な社会が、上から我慢を強いられる社会ではなく、私たちの望む魅力的な社会となるよう、一人ひとりが「成長」についてじっくりと再考する必要があると思います。

 

*引用はすべて試訳によるものです。

 

(翻訳者、翻訳コーディネーター/ Yasuko Sato)

Photo by Karin Henseler on Pixabay

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